■厚労科研班調査
がんや感染制御等に精通する専門薬剤師の約8割が手当支給等の待遇を何も受けていないことが、厚生労働科学研究班の分担研究「わが国の専門薬剤師制度の整備のための基礎資料の作成」(研究分担者:武立啓子薬剤師認定制度認証機構認証コーディネーター)で明らかになった。多くの専門薬剤師が処方の適正化や抗菌薬適正使用をはじめ、医薬品の安全対策や適正使用等の医療の質向上に貢献していたものの、依然として個人の努力に任せているのが現状で、専門薬剤師の地位向上、待遇改善を求める切実な声が上がった。
調査は、日本病院薬剤師会の協力を得て、がん、感染制御、精神科、妊婦・授乳婦、HIV感染症の5領域の専門薬剤師219人に活動状況や課題についてアンケートを実施した。そのうち回答が得られた160人について分析・検討した。
専門薬剤師がどのように医療に貢献しているかでは、「医療の質向上」がいずれの専門領域でも最も多く、7~8割を超えた。次いで「医師等が行う業務負担の軽減」「医療水準の均てん化」への貢献となった。
「医療の質向上」の内訳を見ると、がん専門薬剤師では副作用対策、支持療法の確立が多く、感染制御専門薬剤師では、主に抗菌薬適正使用が挙げられた。精神科専門薬剤師は、主に処方の適正化(処方提案)、妊婦・授乳婦専門薬剤師では、安全な妊娠・出産のための薬物療法の提案等となった。
「医師等が行う業務負担の軽減」の内訳は、がん専門薬剤師がレジメン作成や管理、支持療法提案、感染制御専門薬剤師は、主にTDMと処方設計、精神科専門薬剤師も処方設計と提案が挙げられた。さらに「その他」として、感染制御専門薬剤師では、薬剤費削減による医療経済への貢献が挙げられた。
専門薬剤師の施設内での評価を聞くと、「専門領域の治療薬等の豊富な知識」に対する評価がいずれの領域でも8割を超え、次いで「薬物療法についての豊富な臨床経験」だった。「最先端の薬物療法の研究」への評価も2割前後あった。
また、大きな課題とされる院内での待遇については、専門薬剤師として「何の待遇も受けていない」との回答がいずれの領域でも最も多く、専門薬剤師125人のうち8割近くを占めていた。「手当が支給された」と回答したのは9人に過ぎず、手当の金額としても1カ月5000円が多いなど、待遇が良いとは言えない実態が明らかになった。「その他」として、7人が認定・更新経費の給付を受けていると回答した。
将来取り組むべき事項と対応策については、いずれの領域でも、▽専門薬剤師を養成する研修コースの設置▽他職種との連携▽副作用早期発見・重篤化回避への取り組み――との回答が4~5割と高い割合を占めていた。
専門薬剤師として考えていることや課題、問題点等について尋ねたところ、延べ回答人数となった169人のうち最も多かったのが「専門薬剤師の地位向上・待遇改善等」で、全体の3割近くを占めていた。次いで、「専門施設等での研修希望、講習会・研修会開催等の教育体制の整備」「後進の育成」「各種業務を兼任するため、専門性が十分生かされていない」等が挙がっている。
これらアンケート調査から、多くの専門薬剤師は、レジメン関連業務や抗菌薬使用に関するコンサルテーション、TDMと処方設計等、専門性の高い業務に取り組んでいることが明らかになった。また、副作用対策や抗菌薬適正使用、処方の適正化等、医薬品の安全対策や適正使用の面で貢献が大きいことが分かった。「今後このような様々な貢献をエビデンスとして院内外に公表し、専門薬剤師の存在をアピールすることが大切」とした。
その上で、地位向上と待遇改善について、「専門薬剤師の認定取得・継続には時間的、金銭的負担が大きい」ことが背景にあるとし、個人の努力に任せている現状では、憧れの資格にはならず、後進の育成にも影響を及ぼすため、努力に見合う手当を検討する等の待遇改善は喫緊の課題とした。