京都工芸繊維大学との共同研究プロジェクトで
京都府立医科大学 分子脳病態解析学の東裕美子助教、徳田隆彦教授、京都工芸繊維大学応用生物学部門・昆虫バイオメディカル教育研究センターの山口政光教授らは、モデルショウジョウバエを用いた研究で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の新治療法開発につながる分子の同定に成功した。4月25日付で、同2校より発表された。
(画像はプレスリリースより)
東助教・徳田教授らは2012年、京都工芸繊維大学 応用生物学部門・昆虫バイオメディカル教育研究センターとのショウジョウバエを用いた共同研究により、ALS関連遺伝子であるFUSのショウジョウバエ・ホモログであるCazをノックダウンしたモデルショウジョウバエを世界で初めて作製。
今回の研究ではこれを用いて、その表現型を修飾する因子を探索することで、ALSの発症や進行の新たなメカニズムの解明、および根本的な新治療法の開発につなげる成果を得ることを目指したという。
カギは蛋白質VCP
研究グループは、まずショウジョウバエの複眼特異的に変異遺伝子、あるいはノックダウン(KD)遺伝子を発現させ、さまざまな家族性ALSの原因遺伝子に変異を有するショウジョウバエ系統と交配を行った。そしてその次世代で観察される複眼の表現型が変化する系統をスクリーニングし、VCPというヒト遺伝子のショウジョウバエホモログであるter94が、Caz-KDショウジョウバエの複眼形態に大きな影響を与えることを突き止めたという。
次に、このVCP遺伝子の効果が神経系、特に運動神経においても認められるか、神経特異的Caz-KDショウジョウバエで検討。透明な実験用チューブの壁を登る能力(クライミング・アッセイ)で運動能力評価を行った。
すると神経特異的Caz-KDモデルでは、クライミング・アッセイで運動能力の低下が認められた。この運動能力の低下はter94に変異を有するショウジョウバエとの交配により悪化し、ter94を過剰発現させたショウジョウバエとの交配で改善されることが分かった。
運動能力が改善した後者の交配では、神経特異的Caz-KDモデルで認められていた中枢神経系の神経細胞の核内におけるCaz蛋白の異常減少も改善されていたという。
研究グループは運動能力低下の原因と考えられる運動ニューロンの形態学的な変化についても検討を重ね、運動神経終末の短縮やシナプス数の減少など、運動ニューロン障害を示す形態異常は、ter94遺伝子の変異系統との交配により悪化し、ter94過剰発現系統との交配で改善されることを確認したとしている。
VCPあるいはその調節因子が、ALSの根本治療薬となる可能性
今回の研究成果により、オートファジーおよび核細胞質輸送に関与する蛋白質のVCPが、ALSモデルショウジョウバエの運動障害と運動ニューロンの変成を発現量依存性に修飾することが明らかとなった。このことから、VCPあるいはその活性を調節する因子が、ALSの根本治療薬となる可能性がある。
また、研究に用いられたALSモデルショウジョウバエは今後、様々な遺伝子変異を有するショウジョウバエ系統との交配による疾患の病態メカニズム研究や候補薬剤のスクリーニングなどに応用できると考えられ、その学術的意義も大きいものといえる。(紫音 裕)
▼外部リンク
京都府立医科大学/京都工芸繊維大学 プレスリリース
http://www.kpu-m.ac.jp/doc/news/2014/