■最終報告で一転
千葉大学は25日、元循環器内科学小室一成教授の研究グループが実施した降圧剤バルサルタンの医師主導臨床研究「VARTスタディ」について、データ改ざんの疑いが否定できないとして、著者に論文取り下げを勧告する最終報告を発表した。第三者機関の調査で論文に多くの問題点が指摘され、「恣意的なデータ操作はなかった」と結論づけた中間報告から一転し、データ改ざんが疑われる事態となった。新たに筆頭著者が虚偽の証言をしていたことも発覚。大学側は内部調査の甘さを認めた。
同研究は、日本人の高血圧患者を対象に、バルサルタンとアムロジピンの心血管イベント抑制効果を比べたもので、バルサルタン群とアムロジピン群のイベント発生数で有意差は示されなかった。
昨年の中間報告で、同大の不正行為対策委員会は、「恣意的なデータ操作はなかった」と結論づけたが、3月にまとまった第三者機関の調査結果で、論文データとデータセット、カルテデータとの間に多くの不一致があり、不適当な統計解析法が用いられている等の問題点が指摘された。
また委員会は、筆頭著者が「自らデータ解析し、作図した」としていた発言について、「論文データの後半部分をノバルティス元社員に送り、データ解析と作図をしてもらった」と訂正したことを公表し、以前の発言が虚偽だったことを明らかにした。
大学側によると、当初、筆頭著者は「元社員からアドバイスをもらっていただけで、自身で解析を行っていた」と聞き取りに回答していたが、今年4月になって突然「元社員に全面的に統計解析を行ってもらい、その解析結果を論文掲載した」と発言を訂正、虚偽の証言をしていたことを認めたという。
一方、元社員は「統計解析に関する一般的なアドバイスを行った」としており、責任著者等の証言と食い違いが見られるが、委員会は「元社員が統計解析に関わった可能性は高い」と断定。論文取り下げを小室元教授ら著者に勧告した。今回、突然証言を撤回し、虚偽を認めた筆頭著者の証言に不自然な点もあるものの、委員会は信頼性が高いと判断した。
その上で、論文データとデータセット、カルテデータとの間に不一致があり、統計解析の方法にも妥当性を説明できない問題があることなどから、データ改ざんの可能性が否定できないと断じた。
記者会見した同委員会の中谷晴昭委員(千葉大学理事)は、「筆頭著者が証言を変えた理由は分からない」としつつ、内部調査が甘かったことを認め、「大学として最初から第三者機関に調査を依頼すべきだった」と反省を述べた。