わが国では、医薬品等の薬事申請を目指した「治験」がGCPで規制されるのに対し、研究者が自主的に実施する「臨床研究」は法的拘束力のない倫理指針が適用される二重基準の問題が指摘されてきた。こうした中、降圧剤バルサルタンの臨床研究データ改ざん事件が発覚。厚労省検討会で、法制度を含めた検討を進めるべきとされたことから、新たに臨床研究の法規制が必要か検討が始まった。
この日の初会合では、臨床研究に関する倫理指針で対応できない事項、法規制の導入と研究推進のバランス等の検討事項について、臨床研究の質確保、被験者保護、利益相反の観点も踏まえて討議した。
楠岡英雄委員(国立病院機構大阪医療センター院長)は、「臨床研究について、規制を強化すべきは医薬品等を用いた“臨床試験”の部分」としつつ「どの部分を中心に規制していくのかを明らかにしないと、必要ない部分に規制を行ってしまう恐れがある」との考えを示した。
武藤徹一郎委員(がん研究会メディカルディレクター)は、「倫理指針があるにもかかわらず、不正が起こったことを反省しなければならない」と指摘。「学生時代から利益相反や臨床試験に関する講義を行うことが必要ではないか」と教育の必要性を提言した。
山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)は、患者の立場からディオバン事件について「IRBが歯止めにならなかった」と指摘し、IRBの役割見直しを提案。「IRBの機能をどうしっかり果たせるのか議論すべき」と訴えた。
近藤達也委員(医薬品医療機器総合機構理事長)は、「薬事申請を目指した治験は、パブリックヘルスの視点で不正が起こらない仕組みが取り入れられているが、臨床研究にはそうした観点がない」と指摘。わが国の臨床研究の品質、信頼性確保は「性善説」に則っているとして、「見直すべきところは見直すべき」との考えを示した。
武藤香織委員(東京大学医科学研究所教授)は、「被験者に研究デザインを作る段階からかかわってもらい、研究結果をどう知らせるかまで、患者参加型の臨床研究を実施できるようにすべき」と述べた。
今後、検討会は、見直しが進んでいる疫学研究との統合指針とは別に、臨床研究の法制化に向けた議論を進めていく。来月以降、業界団体や学術団体等から意見聴取を行い、論点を整理した上で、秋頃をメドに法制化について結論を出す報告書をまとめる予定となっている。