糖転移酵素Fut8欠損で別の糖転移酵素発現、GnT−IIIのmRNA量増加
独立行政法人理化学研究所は3月11日、糖鎖を作る糖転移酵素Fut8を欠損させた細胞で、別の糖転移酵素が発現し、活性化して足りない糖鎖を補う仕組みが働いていることを発見したと発表した。
この研究は、理研グローバル研究クラスタ 理研−マックスプランク連携研究センターシステム糖鎖生物学研究グループ疾患糖鎖研究チームの栗本綾子研究員(当時)、北爪しのぶ副チームリーダー、大阪府立母子保健総合医療センター研究所の和田芳直所長らからなる共同研究グループによるもの。この研究成果は、米科学雑誌「The Journal of Biological Chemistry」に3月10日付で掲載されている。
糖鎖の機能については、現在もなお不明な点が多く残されており、糖転移酵素の遺伝子を欠損させて、目的の糖鎖の機能を解明する試みが多くの研究機関で進められている。
同研究グループでは、谷口直之グループディレクターらが過去に酵素として分離精製し、遺伝子同定に成功した糖転移酵素のFut8を欠損させると、糖鎖構造にどのような変化が生じるのかを調べた。
(画像はプレスリリースより)
環境適応のための仕組みか、新たな糖鎖機能の発見、疾病の原因解明などへ期待
同研究グループは、まずFut8を欠損させたマウスの胎児線維芽細胞(MEF細胞)の糖鎖構造を解析。すると、バイセクティングGlcNAcを含む糖鎖が増加していることが判明した。そこで、この糖を付加する糖転移酵素のGnT−IIIの活性を測定したところ、このFut8欠損MEF細胞では、野生型に比べて、約8倍の活性化が確認されたという。
そして、GnT−IIIの発現に関わるmRNAの量を調べたところ、Fut8欠損MEF細胞では、野生型よりも約3倍にまで増加していることが分かった。
またMEF細胞のみならず、Fut8欠損マウス由来の血清中の免疫グロブリンG1における糖鎖でも同様にバイセクティングGlcNAcの増加がみられたといい、生体でも同じように糖転移酵素の活性化が起きていることが強く示唆されたという。
同研究グループでは、これらのFut8欠損マウスにおけるGnT−IIIの活性化やmRNA量の増加原因を探るため、さらにFut8欠損MEF細胞に関する研究を進めたところ、シグナル伝達タンパク質「Wnt」(ウィント)のターゲット遺伝子が増加していること、また「βカテニン」のリン酸化が減少し、正常な分解が進まないために、β−カテニンが細胞内に蓄積していたことが判明した。
これらの結果から、Fut8が欠損した細胞では、Wntのターゲット遺伝子が増加し、Wntシグナルが増強、それによってβ−カテニンのリン酸化が阻害され、細胞内におけるβ−カテニンの蓄積量が増加すること、そして、この大量のβ−カテニンがGnT−IIIの発現を上昇させ、バイセクティングGlcNAcを含む糖鎖が増加するという一連の機構が明らかとなった。
同研究グループでは、今後さらに同種の研究が進むことで、新たな糖鎖機能の発見や疾病の原因解明に結びつくことが期待されるとしている。(紫音 裕)
▼外部リンク
独立行政法人理化学研究所 プレスリリース
http://www.riken.jp/pr/press/2014/
The absence of core fucose upregulates GnT-III and Wnt target genes: a possible mechanism for an adaptive response in terms of glycan function
http://www.jbc.org/content/early/2014/