■在宅医学会でパネル討論
在宅医療の中で「薬剤師にどこまで任せてもらえるか」をテーマにしたパネル討論が、1日に浜松市で開かれた第16回日本在宅医学会大会で行われた。薬剤師による処方提案が大きな焦点となり、訪問薬剤管理指導にかかわる薬局薬剤師からは、実際に処方変更を提案した事例が紹介され、医師からも在宅現場での処方参加が求められた。ただ、依然として在宅医療に関わる薬剤師は少ないのが現状で、さらに積極的な関わりを求める声も出た。
薬剤師の在宅訪問で最も多く依頼される業務は、薬剤や資材の供給、配達、残薬管理等だが、処方設計が日常的に行われているケースは少ないのが現状。蒲生真紀夫氏(大崎市民病院がんセンター腫瘍内科)は、腫瘍内科医の立場から、薬剤師に委託したい仕事として、抗癌剤治療中や緩和ケア施行中、在宅緩和ケア中の患者の薬剤指導、助言を挙げ、医師や看護師への助言、処方提案も求めた。
薬局・薬剤師には、在宅医療の訪問薬剤管理指導を通して薬剤師の視点で他職種への情報提供を行い、連携を図っていくこと、処方作成への参加に意義があると指摘。「在宅現場では薬剤師による処方提案の意義が大きくなる」と積極的な活動に期待感を示した。
安中正和氏(安中外科・脳神経外科医院)は、長崎県で在宅訪問診療や往診を複数の医師が連携して24時間対応を行う「長崎在宅Dr.ネット」、その受け皿としての長崎薬剤師在宅医療研究会「P‐ネット」の活動を紹介した。
薬局も連携して24時間365日対応の取り組みを行ってきた経験を踏まえ、安中氏は良かった訪問薬剤師の例として、「土日のみならず、夜間も対応してもらえる」「末期患者でバイタルの変化や自分の感想を伝えてくれ、状況の変化が分かった」等を紹介。
一方で悪かった例として、「いずれ訪問になるかもしれないと伝えていたが、土日に患者状態が変化し、麻薬が必要になったときに連絡が取れず、結局、別の訪問薬剤師がいる薬局に頼んだ」事例を挙げた。
その上で、在宅訪問に対応できる薬剤師が不足しており、麻薬や無菌調剤が必要な製剤の供給に温度差があること等の課題を指摘。24時間365日体制の構築はハードルが高いとしつつ、「薬剤師の関与がもっと必要」と強調した。
一方、保険薬局薬剤師の立場から、坂本岳志氏(メディカルサポートあけぼのファーマシーグループ支援室)は、胃瘻患者に調剤された17種類の薬剤を家族が粉砕していたことをきっかけに、処方変更にかかわった事例を紹介。その中に気管支拡張剤のテオドール錠があり、粉砕すると血中濃度が上昇する危険性が考えられたため、坂本氏らはその他の処方薬の変更や中止等による処方設計を提案。これには、薬剤削除や安価な薬剤への切り替えも含まれており、「家族の負担も考えながら処方提案することが必要」と述べた。
レモン薬局住吉店(浜松市)の飯山教好氏は、訪問薬剤管理指導の依頼数が増えない原因に関し、訪問診療を行う医師に調査した結果を報告した。薬剤師に訪問薬剤管理指導を依頼したことがある医師の33%が、薬剤師が今後「専門外の薬剤に関する処方立案」を分担することに前向きな姿勢を示していた。
飯山氏は、訪問の依頼経験がある医師は、薬剤師へより広い業務分担を考えており、薬剤師の処方設計が医師の負担減、治療の質向上につながるとして、薬剤師に任される業務を増加させるよう提案した。