社員の関与は現時点では確認されず
武田薬品工業株式会社は3月3日、同社が製造・販売する高血圧治療薬(アンジオテンシン受容体拮抗薬)・カンデサルタン(商品名・ブロプレス)を用いた臨床研究「CASE-J」に関連して同社による不適正な行為が行われていたとの疑惑について記者会見を行った。(前編はこちら)
京都大学医学部循環器内科の由井芳樹氏が、米医学誌「Hypertension」電子版の2月25日付で発表した論文では同研究の心血管イベント累積発現頻度のグラフについて、プロモーション資材のものが追跡期間48カ月で両群のカプランマイヤー曲線が「交差」するものが示され、Hypertension誌の論文では追跡期間42カ月の「交差」しないグラフが提示されていることから、同一研究で複数のグラフが存在すると疑問が呈されている。
この点について日本開発センターメディカルアフェアーズ部の中村浩己部長は、「ハザード比、その他統計学的な数値は両グラフも同一であり、試験期間内の同一期間を対象にしたデータを用いて同じ解析を行った結果と推察されるが、当社はデータの収集・解析には一切関与しておらず、試験の詳細については論文内容から得られるもの以上は持ち合わせていない」と弁明。解析手法の是非についても「同研究のデザイン論文に示されている内容の沿っているもので、我々からはそれ以上申し上げることはない」と説明した。
また、同研究については試験の中央事務局を務めた京都大学EBM研究センターに武田薬品が多額の奨学寄付金を提供しており、さらに07年3月に同社開発本部市販後調査部を退社した元社員がそれ以後のCASE-J関連研究に携わり、論文に名前が掲載されていることなどから、一部では組織的に研究に深くかかわったとの疑念がもたれている。
中村部長は「元社員はCASE-J試験の進捗情報の入手や症例のWeb登録システムに関するアドバイスを行っていたという風に聞いているが、研究の内容や統計解析には関与していない。進捗情報がどういうものかは現時点で詳細は把握していない。今後第三者機関の調査を待ちたい」と説明。同時に中村部長は、同研究について書かれた書籍内でこの元社員が研究のデータベースシステム構築の実質的責任者だったとの記述があることについては「私たちにはわからない」と述べるにとどまった。さらに元社員が京都大学へ移籍後に同社とのコンタクトがあった形跡は、現時点では確認されていないとした。
37億5000万円に上るCASE-J関連の奨学寄付金
CASE-J関連の奨学寄付金については京都大学EBMセンターに合計25億5000万円、公益財団法人成人血管病研究振興財団に6億円、日本ワックスマン財団に4億円、京都大学寄付講座に2億円の合計37億5000万円に上ることを初めて公表。ただ、この点も含めて同社では、現時点では利益相反に相当するものはなく、研究論文も同社への相談はなく独立して作成されたものであると強調した。さらに試験に際して京都大学EBMセンターが参加医師に貸与したPCのセッティングやコンサルティングを同社MRが支援したとの指摘があることについて長谷川社長は「現時点でそのような事実は把握していない」と明言した。
なお、第三者機関について長谷川社長は「現在人選中で早急にスタートさせたい」とし、その報告時期についても現時点ではまだ決定していないことを併せて説明した。(村上和巳)
▼外部リンク
武田薬品工業株式会社
http://www.takeda.co.jp/