高齢化が進み、介護を受ける人・家族を介護する人は増え続けています。これに伴って、介護疲れ、介護ストレスという言葉も耳にするようになりました。介護は、誰にとってもストレスになるのでしょうか?
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ワシントン大学の、精神科および心理学の専門家、ピーター・ヴィタリアーノ博士によると、介護が心理的なストレスになることは、科学的には証明されていなかったそうです。
そこで、ヴィタリアーノ博士は、1953年に発表された論文にはじまる、1,000件を超える報告を元に、双子の女性を対象にデータを分析しました。対象となったデータは、1,228人分。一卵性が408組、二卵性が206組の双子の女性で、一人は家族を介護しており、もう一人は介護をしていない、という背景を持つ人たちです。
双子は遺伝情報が似通っているため、先天的な要素の影響を避けることができるので、比較を行う調査の対象として、信頼度が高いとされています。ちなみに、男性の双子では、この研究の分析として信頼が置けるだけのデータ数がなかったそうです。
調査では、うつ、不安、ストレスの自覚と、心の健康の自覚について、介護との関連の有無を追跡しました。これによると、介護をはじめる前にうつがあった人では、介護が影響を及ぼし、うつが悪化しやすいことが分かりました。うつと、心の健康の自覚は、遺伝子の影響を多分に受けるそうです。
一方で、不安は、介護そのものと最も関連が高く見られました。そして、不安を解消できないままでいる介護者は、うつに陥ることがあるようです。
ストレスの自覚は、その人が育ってきた環境に影響を受けることが多く、基本的には遺伝的な要素は絡むことが少ないとされています。
このような分析結果から、介護がストレスとなって心の健康に影響を及ぼすことは、全ての人にあてはまるわけではないものの、介護が強いストレスとなり得るリスクを抱えている人はある程度予測可能であることが分かりました。また、ヴィタリアーノ博士によると、介護している人のストレスが高くなるのは、他の介護者との関係がうまくいかないとき、そして介護者自身が慢性病を抱えているときだとしています。
介護をはじめる前から、うつを抱えていた人、病気や介護に対して、恐怖や不安を強く抱える家庭環境で育ってきた人たち、慢性病を抱えている人たちなどが、ハイリスクグループになると予測されます。
こうした分析の結果から、ハイリスクグループと言われる人たちを、行政などが中心となってしっかりと支えていく社会構造が必要だと結論づけられました。これはアメリカの調査報告ですが、もちろん日本にも共通すること。官民一体となって様々なアプローチをすることが、強く望まれますね。(唐土 ミツル)
▼外部リンク
Does Caregiving Cause Psychological Distress? The Case for Familial and Genetic Vulnerabilities in Female Twins
http://link.springer.com/article/10.1007/
Does caregiving cause psychological stress? It depends, says study of female twins
http://www.washington.edu/news/