α9インテグリンによる炎症リンパ節からのリンパ球移出誘導の仕組みが明らかに
北海道大学は2月21日、同大学遺伝子病制御研究所の伊藤甲雄氏らの共同研究グループが、リンパ管内皮細胞上のα9インテグリンの役割を調べ、炎症リンパ節からのリンパ球移出誘導の仕組みを解明することに成功したと発表した。この研究成果は、米国東部時間の2月10日付で、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。
多発性硬化症などの自己免疫疾患は、所属リンパ節内でT細胞が抗原を認識することによって活性化し、標的組織に到達して発症すると考えられている。髄洞・皮質洞リンパ管内皮細胞はα9インテグリンを発現し、その遺伝子欠損マウスはリンパ管の弁の機能異常を示して早期に死亡することから、リンパ管機能におけるα9インテグリンの重要性は、これまでの研究でも推測されてきていた。しかし、成体におけるその機能については、多くが依然未解明であった。
(画像はプレスリリースより)
テネーシンCと相互作用、阻害すると細胞移出も阻害
こうした背景から、同研究グループはリンパ管内皮細胞上のα9インテグリンの機能解析を試みた。まず、生体内での機能解析のため、マウスのα9インテグリンに対する阻害抗体を樹立。完全フロイントアジュバントにより炎症を誘導したマウスを作製し、炎症における機能解析を行うため、このマウスに抗αインテグリン抗体を投与して、リンパ節の組織学的解析を実施したという。
インテグリンは分子との結合で機能を示すため、初めにリンパ節内でのα9インテグリンとその結合分子の局在を調べたところ、α9インテグリンを発現するリンパ管内皮細胞の近傍には、細胞外マトリックスタンパク質のひとつであるテネーシンCの存在が認められた。このことから、リンパ節内でαインテグリンとテネーシンCが結合し、リンパ管内皮細胞の機能調節がなされている可能性が示唆された。br />
抗αインテグリン抗体の投与でこの相互作用を阻害すると、リンパ節の髄洞・皮質洞が空洞化し、リンパ球移出を阻害した時と同様の現象が発生した。よって、抗α9インテグリン抗体は細胞移出を阻害する効果があるとみられる。
同研究グループは、さらにリンパ管内皮細胞の詳細な機能解析を進めるため、マウス胎児からリンパ管内皮細胞を単離。テネーシンCによる刺激を行って、その応答をみた。すると、リンパ球移出に重要な因子であるスフィンゴシン1リン酸(S1P)の分泌が誘導されることが明らかになった。
そして、この細胞移出の阻害が実際に炎症性疾患に対する治療効果をもつか検討するため、多発性硬化症の動物モデルに対し、抗α9インテグリン抗体を投与する実験も実施した。その結果、抗体投与によって臨床症状が緩和されることが分かったという。
α9インテグリンを標的とした新薬開発に期待
今回の研究を通じ、これまで明らかとなっていなかったα9インテグリンのもつ、生体内でのリンパ球移出の調節機能が見出された。リンパ節におけるT細胞の抗原認識・活性化後の細胞移出は、さまざまな炎症性疾患に共通した現象であるため、α9インテグリンの阻害がこれら疾患の治療標的として有用であると期待される。
さらに、α9インテグリンの阻害は、所属リンパ節からの細胞移出を阻害するものの、それ以外の非所属リンパ節からの細胞移出には影響しないという結果も得られたという。この結果は、全身のリンパ球循環を保ちながら、炎症細胞の標的器官への到達を妨げることが可能になると考えられ、より副作用の少ない、効果的で新しい炎症性疾患の治療法につながる可能性があるとされる。(紫音 裕)
▼外部リンク
北海道大学 プレスリリース
http://www.hokudai.ac.jp/news/140221
Integrin α9 on lymphatic endothelial cells regulates lymphocyte egress
http://www.pnas.org/content/early/2014/