医薬基盤研究所チームらが発表
独立行政法人 科学技術振興機構は2月10日、独立行政法人 医薬基盤研究所の石井健プロジェクトリーダーや小檜山康司研究員らのグループが、北九州市立大学の櫻井和朗教授のグループらとの共同研究により、インフルエンザなどの感染症やウイルス疾患に対するワクチンの効果を高める、新たな免疫活性化分子(ワクチンアジュバント)の開発に成功したと発表した。
昨今の自然免疫研究で、ワクチンが十分な効果を示すためには、自然免疫の活性化が欠かせないことが明らかとなってきている。そのため自然免疫受容体であるトル様受容体(TLR)に結合する物質のリガンドがアジュバントとして期待されるという。
なかでもTLR9のリガンドである合成核酸CpG ODNは強く自然免疫を活性化することから、抗がん薬や抗アレルギー薬としても有望視されている。しかし、効果の強いCpG ODNは凝集を起こすなど不安定であるため、実用化に向けての開発に困難を生じていた。
βグルカンとの複合体作製で課題を克服
研究チームではこうした課題を克服し、ヒトへの応用が可能なワクチンアジュバントを開発すべく、βグルカンと合成核酸との複合体を形成させる独自技術を用いて、CpG ODNとβグルカンとの複合体(K3-SPG)を作製した。そしてヒト細胞で自然免疫を活性化するかどうか調べたところ、これまでに報告されているCpG ODNに比べ、強く自然免疫応答を活性化していることが確認できたという。
次にマウスインフルエンザワクチンモデルを用いて検討したところ、季節性インフルエンザワクチンのスプリットワクチンにK3-SPGを添加するだけで、より効果が高いとされてきた全粒子ワクチンよりもインフルエンザウイルス感染に対する強い防御効果がみられたそうだ。また、カニクイザルでテストしたところ、同様にインフルエンザワクチンに対する免疫応答が強力に誘導されたため、ヒトへの応用も可能と考えられるとしている。
(画像はプレスリリースより)
イメージング技術により作用機序も確認、今後の応用に期待
研究チームでは、さらにK3-SPGの作用機序、とくに体内動態を明らかにするため、イメージング技術を用いて解析。その結果、K3-SPGはマウスに接種された後、直ちにリンパ節表面のマクロファージに特異的に取り込まれていることが分かった。その後、K3-SPGは免疫システムの司令塔である樹状細胞に取り込まれ、また強く活性化していることが明らかとなったという。
これらの結果から、研究チームはこのK3-SPG開発をもって、有用なワクチンアジュバントとしての新規核酸医薬開発に成功したとしている。この新規アジュバントはヒト細胞においても従来のCpG ODNより強い自然免疫や獲得免疫の活性化を示しており、今後の応用が期待される。
研究チームでは、この新規アジュバントについて、GMP準拠の製剤化を行うことを次の課題としており、これに成功すれば、インフルエンザワクチンのアジュバントや、がんワクチン、その他感染症のワクチンへの応用も可能となるとしている。なお、この研究成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン速報版でも公開されている。(紫音 裕)
▼外部リンク
科学技術振興機構/医薬基盤研究所/北九州市立大学 プレスリリース
http://www.nibio.go.jp/news/2014/
Nonagonistic Dectin-1 ligand transforms CpG into a multitask nanoparticulate TLR9 agonist
http://www.pnas.org/content/early/2014/02/06/