富山県立大学教授らの研究グループが開発に成功
科学技術振興機構(JST)と富山県立大学は2月7日、富山県立大学の浅野泰久教授、安川和志研究員らとの共同研究により、アミン化合物((R)-α-メチルベンジルアミン)に作用する自然界には存在しない新たなアミン酸化酵素を世界で初めて開発、さらにこの酵素を用いてS型のα-MBAを高収率、高純度で生産する方法の開発に成功したと発表した。医薬品開発における技術応用が期待されている。
鏡像異性体をもつアミン化合物は、医薬品原料などとして重要な化合物である。しかし、構造は同じでも働き方が異なる鏡像異性体から医薬品を製造する場合、目的の鏡像異性体だけを作り分ける技術が欠かせない。有機合成化学の手法では、一方のみを清算しようとすると、触媒が高価であったり、精製工程の収率が低かったりといった課題が生じてしまう。一方、酵素を用いた合成では、有用な鏡像異性体だけを低コスト・高収率で得ることができる。
今回対象となっているα-MBAには、鏡像異性体としてR型とS型が存在し、それぞれ重要な化合物だが、これまでに見つかっている酵素はS型にのみ働くもので、R型のα-MBAは得られても、S型のα-MBAを得ることはできなかった。
(記事内の画像はプレスリリースより)
ブタ腎臓由来のD-アミノ酸酸化酵素から開発
研究グループでは、この100%S型のα-MBAをラセミ体のα-MBAから作る方法を新たに開発することを目指し、ブタ腎臓由来のD-アミノ酸酸化酵素に着目。同酵素からたんぱく質工学的手法を用いて、R型のα-MBAに選択的に作用する自然界には存在しない酸化酵素を世界で初めて生み出すことに成功した。
この酵素をラセミ混合物のα-MBAに作用させると、R型のみがアセトフェノンへ変換され、理論上50%の収率でS型α-MBAを得ることができるという。そして研究グループでは、さらに低分子の還元剤と併用することで、S型のα-MBAのみを100%の収率で蓄積させることができるというデラセミ化法も見出した。
このデラセミ化法では、R型のα-MBAが酵素により酸化される反応の途中で、低分子還元剤によってα-MBAに強制還元される。反応途中でα-MBAへと戻ったものは、またS型とR型が同じ確率で生じ、R型は再度酵素反応で使用されるものとなる。こうしたサイクルが繰り返されることで、酵素に作用しないS型の比率が上昇していくため、最終的には副反応や精製工程の損失があるため、収率では65%であったものの、純度100%のS型α-MBAを得ることができたそうだ。
アルツハイマー型認知症治療剤などを中心とした、医薬品開発・生産への応用に期待
こうして今回開発されたデラセミ化法では、従来の光学分割的手法と比べ、倍の収率でS型α-MBAを生産できるものとなっている。
また、開発に成功したR型のα-MBAに選択的に作用する酸化酵素は、広い基質特異性をもっているものであり、改良を加えることで、アルツハイマー型認知症治療剤のリバスチグミンや、過敏性膀胱治療薬のソリフェナシンなど、鏡像異性体をもつさまざまなアミン化合物の生産に応用できる可能性が考えられるという。もちろんデラセミ化法は、高純度な製品生産法としても有用だ。
高収率・高純度での医薬品生産を可能にするこの研究成果は、安価でクリーンな技術として役立てられると期待されている。なお、この研究の詳細は、ドイツの科学雑誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン速報版に掲載される予定となっている。(紫音 裕)
▼外部リンク
科学技術振興機構(JST)/富山県立大学 プレスリリース
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20140207-2/