Myeloperoxidase発現メカニズムの一端を解明
長崎大学 原爆後障害医療研究所 原研内科の糸永英弘教授、今西大介教授、宮崎泰司教授らによる、急性骨髄性白血病細胞のMyeloperoxidase発現に関する研究成果が、1月10日付で学術雑誌「Leukemia」誌に掲載された。この研究成果は1月28日、長崎大学より発表されている。
急性骨髄性白血病の発症には、遺伝子の点突然変異や融合遺伝子形成などのジェネティクス異常が必要と考えられている。エピジェネティクスは塩基配列によらない遺伝情報の発現制御であり、体細胞ではその状態が伝承される仕組みとなっているが、なかでもDNAのメチル化修飾は、代表的なエピジェネティック要因として知られている。近年、骨髄異形成症候群など造血器悪性腫瘍における病態形成に、DNAメチル化異常が関わっていることも明らかとなってきた。
急性骨髄性白血病細胞のMyeloperoxidase(MPO)の発現の有無は、急性骨髄性白血病診断において不可欠かつ簡便な方法として一般的になっているが、この発現状態は、従来のジェネティクス異常のみでは十分に説明できず、その調節機序など、いまだ明らかになっていない点が多かったという。
(画像はwikiメディアより引用 Author : Difu Wu)
DNMT3B遺伝子とMPO遺伝子の発現量は逆相関
同研究グループでは、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(decitabineおよびzeburaline)が急性骨髄性白血病細胞におけるMPO遺伝子プロモーターの脱メチル化およびMPO遺伝子の転写をMPO遺伝子の不活化とともに誘発することを確認。MPO遺伝子の転写・発現は、直接的または間接的に、DNAメチル化によって調節されていることが分かった。
また、MPO陽性芽球の割合が高い急性骨髄性白血病患者から得られたCD34陽性細胞において、33の遺伝子におけるメチル化異常パターンを見出し、MPOの発現が病態形成に関わる他の遺伝子のDNAメチル化異常と強い関係をもつことも明らかにしている。とくにDNAメチル化をつかさどる酵素のひとつであるDNMT3B遺伝子においては、MPO遺伝子の転写レベルとの間に逆相関(P=0.0283)関係があることが発見されたという。このことから、DNMT3B遺伝子が白血病発症に深く関与している可能性が示唆されている。
同研究グループでは、今回の研究成果について、DNAメチル化異常が急性骨髄性白血病の病態形成に非常に大きな意味をもつものであることが明らかになったとし、被爆者白血病を含め、DNAメチル化異常に関する研究が重要であることを訴えている。DNAメチル化異常を誘発する原因は、炎症を含め多数存在するが、環境との相互作用が重要とみられている。(紫音 裕)
▼外部リンク
長崎大学 学術情報
http://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/about/info/
Expression of myeloperoxidase in acute myeloid leukemia blasts mirrors the distinct DNA methylation pattern involving the downregulation of DNA methyltransferase DNMT3B
http://www.nature.com/leu/journal/vaop/ncurrent/