グリア細胞の新たな役割発見、グルタミン酸放出のしくみ解明も
生理学研究所と東北大学大学院医学系研究科の松井広准教授のグループは、マウスにおいてグリア細胞の活動を光で操作する新技術(オプトジェネティクス)を用い、脳におけるグリア細胞の新たな役割を発見した。この研究成果は1月22日、東北大学および生理学研究所より発表され、1月22日(日本時間1月23日)付で「Neuron」に掲載されている。
(画像はプレスリリースより)
まず同研究グループは、光で活性化するチャネルロドプシンという物質によってグリア細胞のみを活性化したところ、グリア細胞から興奮性の伝達物質であるグルタミン酸が放出され、それが神経細胞間のシナプス伝達に影響をもたらし、運動学習機能が促進されるなどの効果があらわれることを明らかにした。
また、このグリア細胞がグルタミン酸を放出するメカニズムも新たに発見したという。神経細胞は刺激によって細胞内部のカルシウム濃度が上がった際、小胞から細胞外へグルタミン酸を放出する。しかし、グリア細胞は細胞を囲む膜上に存在する陰イオンチャネルを介し、細胞内のグルタミン酸を放出していた。このチャネルは細胞内が酸性となった時に開くため、グリア細胞内が酸性になるとグルタミン酸を放出するということが分かった。
(画像はプレスリリースより)
脳虚血時の細胞死進行緩和に光
脳梗塞などの脳虚血時には、血管からの酸素とグルコースの供給が止まり、グリア細胞からのグリコーゲンが分解され、乳酸が蓄積することで細胞内が酸性化するとされる。これまでの研究で、そうした脳内酸性時には大量のグルタミン酸が放出され、興奮性神経毒性によって脳細胞死にいたることが分かっていた。だが、なぜ、どこから大量のグルタミン酸が、どのようなしくみで放出されるのかは不明であった。
今回の研究により、脳内の酸性化がグリア細胞内でとくに速く進行すること、そしてその酸性化自体がグリア細胞のグルタミン酸放出を促していることが明らかとなった。
さらに同研究グループでは、光に反応して細胞内をアルカリ化するアーキオロドプシンという物質をグリア細胞内に発現させ、脳虚血が起こっている最中に光操作で細胞をアルカリ化したところ、グルタミン酸放出が抑制され、脳虚血に伴う細胞死の進行を食い止めることに成功したという。
神経細胞とともに、脳の大部分を占めるグリア細胞だが、従来、グリア細胞のみを特異的に刺激する方法がなかったことなどから、その役割は十分に調べられていなかった。今回の研究により、グリア細胞は学習などの脳機能を調整していること、またその過剰な活動が脳組織を破壊することが判明した。こうした新たな知見は、今後、学習における脳機能の亢進や、脳梗塞をはじめとする病態時のダメージをコントロールできるものとする可能性を秘めており、新たな治療へつながることが期待されている。(紫音 裕)
▼外部リンク
東北大学大学院医学系研究科/生理学研究所 プレスリリース
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/
Optogenetic Countering of Glial Acidosis Suppresses Glial Glutamate Release and Ischemic Brain Damage
http://www.cell.com/neuron/abstract/