■学術会議の提言受け
日本学術会議の薬学委員会「チーム医療における薬剤師の職能とキャリアパス分科会」がまとめた薬剤師職能に関する提言を受け、同分科会の平井みどり委員長(神戸大学病院教授・薬剤部長)は、「提言を参考に、薬系大学関係者は必要な体制整備を進めてもらいたい」と関係者に促す一方、病院や薬局など現場薬剤師には「医療専門職としての倫理観を持ち、自律した薬剤師として、今以上に、社会で活躍できるようになってほしい」と期待を語った。
提言では、薬剤師職能において医療専門職としての倫理観の涵養と自律が強く求められるとした上で、医療の場における薬剤師の新たな機能として、地域医療におけるプライマリケアへの関与を一層推進する必要があると強調した。
その上で、チーム医療の概念が大きく拡大しつつあるとし、「薬剤師の専門性を生かしてチーム医療に参画し、薬物療法の担い手として安全な医療を提供すると共に、地域における健康増進、保健・福祉へ関与することが極めて重要」と指摘した。
地域医療に参加する薬局には、プライマリケアを担う医療提供機関としての機能も期待されているとし、薬局薬剤師による健康相談機能が注目を集めていることを指摘。患者の自己測定結果を評価し、医師へ受診勧奨するなどのサービスを提供している薬局の事例を挙げ、こうした業務やOTC薬の推奨には的確な臨床判断能力が必要とし、職能向上への自立的な取り組みを促した。
病院薬剤師については、「病棟への薬剤師の完全配置を進め、チーム医療を拡充、発展させることが必須」と強調。病棟におけるリアルタイムの処方監査等の業務展開も考慮されるべきとした。
大学における臨床系教員のあり方にも言及。6年制学部教育カリキュラムにおいて、病院や地域薬局で行われる長期実務実習を効果的に行うためには、医療現場で必要とされる薬剤師としての素養を十分教育する必要があるとし、「臨床系教員は医療現場の臨場感を含め、最新の医療の現状に合わせた教育を行うことが望まれる」と求めた。
一方、約半数の臨床系教員は全く実務に携わっていないことを課題に挙げ、「臨床系教員の適正数確保、臨床能力の維持の方策について議論が必要」と提起。「臨床系教員に臨床業務を一律に義務づけることは困難」としつつ、「医療施設との連携を通して、最新の薬物治療と臨床に触れる機会を維持し、薬剤師としての感性を磨くことが重要」と研鑽を求めた。
さらに、専門薬剤師制度についても言及し、「現時点でもかなり多岐にわたっており、これを一律に標準化することは難しい」としつつ、「今後も各団体が独自に認定を行う資格が増えていくとすれば、何らかの標準化や質の担保の明確化が必要」と提言した。
平井氏は「提言は、病院薬剤師、薬局薬剤師、大学関係者など様々な立場からの意見を集約し、薬剤師職能の近未来の方向性や、薬剤師がどのように社会に貢献していくかについてまとめたもの。その職能を育むための教育や研究のあり方についても盛り込んでいる」と意義を強調。
「提言を参考に、病院や薬局など現場の薬剤師や、薬系大学関係者は必要な体制整備を進めてもらい、医療専門職としての倫理観を持ち自律した薬剤師、臨床研究に積極的に取り組む薬剤師として、今以上に社会で活躍できるようになってほしい」と話している。