慶應義塾大学らの研究グループが発表
慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授、島崎琢也専任講師、理化学研究所統合生命医科学研究センター免疫転写制御研究グループの金田勇人上級研究員らの研究グループは1月14日、中枢神経系の神経細胞やグリア細胞を生み出す元となる神経幹細胞の分化能が、特定の小分子RNAによって制御されていることを発見したと発表した。
小分子RNAの量の調節によって、DNAのメチル化の程度によらず、神経幹細胞の分化能をコントロールすることができることを明らかにしており、今後の薬剤開発や細胞治療などへの技術応用が期待される。この研究成果は、現地時間の1月13日、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン速報版に掲載された。
(画像はプレスリリースより)
転写制御因子に関わる分子メカニズム研究から発見
研究グループはこれまでに、神経幹細胞の神経(ニューロン)対グリア分化における運命決定の前提条件として、転写制御因子であるCOUP-TF1と2の発現による、グリア分化誘導シグナルに応答できるようになるための「コンピテンシーの変化」が必要であることを明らかにしていた。
しかし、その分子メカニズムは依然不明であったため、今回、COUP-TFの発現を抑制し、グリア新生を阻害した神経幹細胞において発現量が変化する遺伝子群の機能を調べた。そして、複数の小分子RNAで構成されているmiR-17-92クラスターのうち、miR-17と高い相同性および同一のシード配列を有する2つのパラログであるmiR-106aおよびbを、グリア新生を阻害する因子として同定することに成功したという。
さらに、発生段階が進んでグリア新生期となった状態で減衰している神経幹細胞の神経産生能を、それらの強制発現を促すことで回復させることも可能であることを突き止めた。
また、miR-17は標的遺伝子としてp38MAPキナーゼの発現を抑制し、p38MAPキナーゼの発生初期における神経幹細胞への強制発現は、グリア新生を早めることも確認されたという。
こうしたことから、miR-17とp38MAPキナーゼの発現量の変化によってコンピテンシーは変化し、神経新生期からグリア新生期へと移行しているというメカニズムが見えてきた。
研究グループでは、今回の研究結果について、特定の小分子RNAの発現量によって神経幹細胞のコンピテンシーが制御されており、その量を調節することで分化能をコントロールできることが判明したことは、新しい幹細胞制御法につながる画期的発見であるとしている。
他の細胞でも応用可能、あらゆる研究の進展に寄与するものと期待
さらに、今回発見されたコンピテンシーの制御法は、神経幹細胞のみならず、他のさまざまな細胞でも応用可能であると考えられるという。実際にmiR-17は他のさまざまな幹細胞でも発現が見られ、分化制御に関与しているとの報告もあるそうだ。
よって今後、小分子RNAと幹細胞のコンピテンシーの関係性を包括的に解明していくことで、新薬開発や再生医療、がん治療などあらゆる分野において応用可能な細胞制御技術の開発につながると期待される。(紫音 裕)
▼外部リンク
慶應義塾大学 プレスリリース
http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2013/
The miR-17/106-p38 axis is a key regulator of the neurogenic-to-gliogenic transition in developing neural stem/progenitor cells
http://www.pnas.org/content/early/2014/