当面は、広島市佐伯区、廿日市、福山の各支部をモデル地区に設定して運用し、その効果を実証する。同地区内の半数に該当する150薬局の参画を目標に、今月から参加の呼びかけを開始した。広島市佐伯支部では会員薬局の約7割が参加を表明するなど、前向きな反応が得られている。
参加薬局は、発行した医療機関名を含む処方情報や、その処方をもとに実際に調剤した医薬品名を含む調剤情報を、パソコンやレセプトコンピュータを用い安全なインターネット回線を通じてHMネットに送信する。各薬局から送信されたこれらの情報は、専用サーバーに集中的に保存される。
HMネットに参加する病院や診療所の医師や薬局薬剤師は、HMネットでの情報共有に同意した患者が来院・来局し、患者固有のID番号を格納した「HMカード」を提示した場合に、サーバーに保存された処方情報や調剤情報をHMネットを通じて閲覧できる。紙のお薬手帳と同様に、その情報を重複投与や相互作用の防止などに役立てる。画面上の薬剤名をクリックすれば、添付文書が表示される仕組みも備えている。
患者が持つ携帯端末に搭載されたスマホ型電子お薬手帳では、スマホを預かって操作する必要があるため、医療従事者はそのデータを活用しづらい。サーバー型電子お薬手帳の構築によって、医療従事者間の調剤情報の共有化が円滑になるという。
また、災害時など紙のお薬手帳を紛失した時にも、サーバーに蓄積された処方・調剤情報をすぐに閲覧して活用できるメリットがある。将来は、サーバーに蓄積された情報を、医療従事者だけでなく患者が閲覧できる仕組みも構築される計画だ。
参加を表明した薬局がHMネットに接続できる環境の整備は2月以降に始まる。公的な事業費でまかなわれるため、薬局の費用負担は不要だ。整備を終えた薬局から運用を開始し、モデル地区での成果を検証する。
2014年度以降は、HMネットへの接続料として毎月3000円が必要になる。広島県全域に拡大するかどうか、接続に必要な初期費用を誰がどう負担するかなど詳細は今後、検討される見通しだ。
この事業では同時に、患者向けのスマホ型電子お薬手帳の導入も進められる。大阪府薬剤師会が開発した電子お薬手帳システムを活用する。これは、事前に専用アプリをインストールしたスマホで、レセコンからプリントアウトされた2次元バーコードを読み取るなどして、スマホ内に電子お薬手帳を構築するシステム。参加薬局がこのシステムを活用できる環境整備を同時に進める。
サーバー型、スマホ型の電子お薬手帳を合わせて「HMネットe-お薬手帳」と総称。タイプが異なる電子お薬手帳の運用を同時に開始するのは全国で初めてとみられる。広島県薬専務理事の豊見雅文氏は「両方を推進していけば、医療従事者にとっても患者さんにとっても立派な電子お薬手帳を運用できると思う」と語る。
将来は、調剤情報の共有化だけでなく、HMネットに参加する基幹病院の検査データなどを、薬局薬剤師が閲覧できる仕組みを構築したい考えだ。基幹病院の電子カルテ情報を薬局でも閲覧できるようになれば、薬局薬剤師の業務の幅が広がり、医療の質や安全性の向上に今以上に貢献できると期待される。
HMネットは、広島県が11年に策定した新地域医療再生計画に基づき、国の補助金をもとに広島県と広島県医師会が開発を進めてきたもの。システム構築を経て、13年度から本格的な運用が始まっている。