ケタミンはセロトニン1B受容体に作用
理化学研究所は1月8日、新しいタイプの抗うつ薬として注目されている「ケタミン」が、セロトニン1B受容体の活性を“やる気”に関わる2つの脳領域で上昇させるということを、サルを対象にした陽電子放射断層画像法(PET)によって明らかにしたと発表した。この研究結果は、米オンライン科学雑誌「Translational Psychiatry」に1月7日付で掲載されている。
(画像はwikiメディアより引用)
抗うつ作用メカニズムは未解明なままであったケタミン
現在、主に用いられている抗うつ薬は、セロトニン神経系に作用するが、治療効果が現れるまで数週間程度かかる。さらに、吐き気や神経過敏などの副作用が見られ、これによりうつ病患者の回復が遅れたり、自殺リスクを高める要因となっている。
一方、麻酔薬・鎮痛薬として使用されているケタミンは、低用量でも投薬後2時間以内に抗うつ作用を示し、効果が数日間持続するなど、既存の抗うつ薬にはない即効性と持続性の抗うつ効果を示すことが臨床研究報告されている。ケタミンは、グルタミン酸受容体の1つである「NMDA受容体」に作用するが、その抗うつ作用のメカニズムは未解明なままだった。
研究内容と今後への期待
今回の研究は、アカゲザルを対象にして行われた。ケタミン投与とセロトニン神経系との関係を解明するため、PETを用いて脳内でのセロトニン神経系の活性を測定した。
その結果、ケタミン投与後に、側坐核と腹側淡蒼球の2つの領域にあるセロトニン1B受容体の活性が有意に上昇していることを発見。さらに、抗うつ効果に密接に関係するグルタミン酸受容体「AMPA受容体」の機能を阻害する拮抗薬「NBQX」を前投与したところ、この活性化は見られなくなったという。
これらの結果から、ケタミンの抗うつ効果にはセロトニン神経系とグルタミン酸神経系の2つが密接に関与していることが明らかとなったとしている。
以上の研究結果から、さらなるケタミンの抗うつ作用メカニズムの解明、ケタミンと同様の即効性と持続性を持つ新しい抗うつ薬の開発、また、この領域に着目した脳機能画像によるうつ病の診断法の実現が期待される。(たなか牡丹)
▼外部リンク
理化学研究所 プレスリリース
http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140108_1/
A possible mechanism of the nucleus accumbens and ventral pallidum 5-HT1B receptors underlying the antidepressant action of ketamine: a PET study with macaques
http://www.nature.com/tp/journal/v4/n1/