幹細胞を枯渇させない仕組み
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 幹細胞制御分野の田賀哲也教授らのグループは、神経幹細胞が自分自身を残し、枯渇させない自己複製の仕組みを解明したと、2013年12月25日発表した。研究成果は米国科学誌「STEM CELLS」オンライン速報版に12月3日付で公表され、2014年に同誌に掲載される予定である。
(画像はwikiメディアより引用)
すべてを分化させずに自己複製する幹細胞
神経幹細胞は、脳を構成するニューロンやアストロサイトと言った主要な細胞を生み出す能力を持つが、幹細胞のすべてが分化してしまうと、神経幹細胞が枯渇してしまう。そのため、神経幹細胞は自己複製能力も保持しているが、幹細胞の増殖と分化抑制の仕組みは、他の臓器の幹細胞も含め、あまりよくわかっていない。とくにヒトを含めたほ乳類の脳において、神経幹細胞は胎児から大人まで一生にわたって存在し、分裂しながら必要な細胞を供給することで、脳の構築とその高次機能の維持に重要な役割を担っているが、この幹細胞のコントロールは、神経疾患の克服や治療が困難な脳や脊髄の損傷への治療に極めて重要である。
サイクリンD1がSTAT3を阻害する
研究グループは、神経幹細胞の増殖のカギとなる分子サイクリンD1が、アストロサイトの分化を促進する機構のカギとなる分子STAT3の働きを阻害することで、アストロサイトへの分化を抑制することを発見したという。これは、サイクリンD1が、従来知られている細胞増殖促進という作用に加え、神経幹細胞の分化抑制という機能をも持つということである。
他の臓器の幹細胞の仕組み解明にも手がかり
研究グループが既に明らかにしていた、神経幹細胞の自己複製時に、ニューロンの分化が抑制される仕組みに続き、アストロサイト分化の抑制メカニズムを解明したことで、神経幹細胞がなぜ枯渇しないのか、という疑問を解決する新たな発見として、この成果は重要なものである。この幹細胞の、自己複製しても枯渇しない仕組みは、他の臓器の幹細胞でも同様の仕組みがあるとも考えられ、解明の手がかりになると考えられる。また、脳の難治性疾患の治療法の開発にも、この幹細胞研究の成果の応用が期待される。(長澤 直)
▼外部リンク
国立大学法人 東京医科歯科大学 プレスリリース
http://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/
A growth-promoting signaling component cyclin D1 in neural stem cells has anti-astrogliogenic function to execute self-renewal
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/