腎臓再生医療に大きな一歩
腎不全による人工透析患者数は増加の一途をたどっているが、腎移植のドナーは慢性的に不足しており、腎臓再生医療への期待が高まっている。しかし、網膜や心臓、膵臓といった臓器で臨床応用も視野に入れた再生医療研究が進んでいる一方で、腎臓をつくることはこれまで極めて困難とされてきたという。
12月13日、熊本大学発生医学研究所・腎臓発生分野の、太口敦博氏(医学教育部博士課程大学院生)と西中村隆一教授らの研究グループが、世界で初めて試験管内での3次元腎臓組織の構築を実現したことを発表した。これにより、腎臓再生医療へ向けて大きな一歩を踏み出したという。同研究成果は、「Cell Stem Cell」オンライン版に12月12日、掲載された。
(画像はプレスリリースより)
胎児の下半身の元となる特殊な細胞に由来
西中村隆一教授らの研究グループは、かねてよりマウスを用いた研究により、糸球体と尿細管がともに胎児期の腎臓前駆細胞からできていることを報告していた。今回、太口敦博氏らの研究により、マウスの腎臓前駆細胞が下半身の元となる特殊な細胞「体軸幹細胞」を経て形成されることが明らかとなった。
また、実際にマウスの胎児から採取した体軸幹細胞から、腎臓前駆細胞を作るのに必要となるタンパク質(成長因子)の組み合わせを同定することに成功した。
マウスES細胞とヒトiPS細胞から、試験管内で腎臓前駆細胞を作成
さらに同定した成長因子を投与することで、試験管内でマウスES細胞とヒトiPS細胞の両方から腎臓前駆細胞を作り出すことに成功し、これらの腎臓前駆細胞を培養して、糸球体と尿細管の両方を伴う三次元の腎臓組織を世界で初めて再構築したという。
この腎臓組織が実際に尿を作り出せるようになるまでには、成熟化と尿排出の仕組みを整えることが必要となるが、研究チームは、今回の研究成果は腎臓再生医療の実現に向けての大きな一歩だと言えるとしている。また、腎臓組織の構築方法が明らかにされたことで、今後は試験管内で腎臓の疾患を再現できる可能性もあり、病因の解明及び創薬開発につながることが期待される。(鈴木ミホ)
▼外部リンク
熊本大学 プレスリリース
http://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20131213
Redefining the In Vivo Origin of Metanephric Nephron Progenitors Enables Generation of Complex Kidney Structures from Pluripotent Stem Cells
http://www.cell.com/cell-stem-cell/