スポンジのような弾力性を持つ
独立行政法人科学技術振興機構は12月11日、スポンジのような弾力性があり、メスでも切れる人工骨の開発に成功したことを発表した。
(画像はプレスリリースより)
これは独創的シーズ展開事業・委託開発課題「生体置換型有機無機物複合人工骨の製造技術」の開発結果を成功と認定したもの。東京工業大学 大学院理工学研究科の田中順三教授らの研究成果をもとに2003年3月から2012年3月にかけてHOYA株式会社に委託し、同社ニューセラミックス事業部(HOYA Technosurgical株式会社)にて企業化開発が進められてきた。開発費は約4.2億円。
問題点が多かったこれまでの人工骨
骨折などにより欠損した骨組織の修復治療では、従来は自家骨を移植する手術が中心であった。自家骨は骨再生に優れ、免疫や感染の問題がないなどの長所がある一方、採取量の限界、2次的侵襲や採取部位の痛みなど、患者への負担が大きいといった欠点があった。これらの理由から1970年代に水酸アパタイトなどセラミックスの人工骨が開発され、現在多く使われているという。
その後、早期に骨再生を達成する目的で、これまで人工骨の主成分として一般的であった水酸アパタイトではなく、吸収置換性に優れるβ型リン酸3カルシウムを用いた人工骨が開発され、高評価を得ていた。しかし、β型リン酸3カルシウムはもろいため、手術時の操作性が難しい、材料のみの吸収が先行し充分な骨再生が起こらない、材料が残留し、骨再生が遅れるなどといった問題点が報告されたことから、従来製品の短所を克服する新しい人工骨の開発が望まれていたという。
手術時の操作性も大幅に改善
今回開発に成功した人工骨は、水酸アパタイトとコラーゲンで作製したスポンジ状の多孔質体。弾力性を持っているため材料自身が変形し、形容が複雑な骨欠損部に対しても不良を生じずに補填することができるとしている。
また、メスなどによる切断や加工が容易にできることから、従来の人工骨と比較して手術時の操作性を大幅に改善することにも成功。またヒトの骨と類似した構造と組成を持っているため自分の骨と馴染んでいき、最終的には新たに形成された骨と置き換わるという。(小林 周)
▼外部リンク
独立行政法人科学技術振興機構 プレスリリース
http://www.jst.go.jp/pr/info/