東京大、米カリフォルニア大らの共同研究グループが解明
東京大学医学部附属病院は12月13日、代表的脳腫瘍のひとつである神経膠腫(グリオーマ)が悪性に転化し、再発する過程に生じるゲノム変化を解明したと発表した。
この成果は、同病院の特任講師である武笠晃丈助教、斉藤延人教授、東京大学先端科学技術研究センターゲノムサイエンス分野の油谷浩幸教授、大学院生の相原功輝氏などのグループに、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校のグループらが加わった共同研究によるもので、論文誌「Science」に掲載予定であり、これに先駆けて同誌のオンライン版「Science Express」に、12月12日付で掲載されている。
(画像はwikiメディアより引用 Author : Mikhail Kalinin)
全遺伝子解析の実施で新たな遺伝子変異の出現などを確認
研究グループでは、低悪性度の神経膠腫が診療経過中に悪性に転化し再発する過程で生じる遺伝子変異とその様式変化を、初発時と悪性転化時のそれぞれにおける手術摘出腫瘍検体を用いて比較する、詳細な全遺伝子解析を行った。
すると、再発時には新たな遺伝子変異がさまざまなかたちで出現することが確認されたほか、逆に初発時に存在していた遺伝子変異が消失していることも観察されたという。消失していたものには、腫瘍化における重要な遺伝子、TP53遺伝子やATRX遺伝子も含まれている。
研究グループによると、今回の結果から、再発時の腫瘍は、IDH1遺伝子変異などいくつかの重要な遺伝子変異を除いて、腫瘍形成の初期における細胞から早い段階で枝分かれして進化した、初発時とは大幅に異なる遺伝子変異のセットをもつ腫瘍であることを示唆するものであったという。
抗がん剤による治療症例の多くで特定の塩基変異が発生
また、治療過程で抗がん剤の一種であるアルキル化剤を用いた症例の半数程度で、シトシン、グアニンがチミン、アデニンに置換する塩基変異がきわめて高頻度に生じることも確認したという。さらにそうした腫瘍では、DNAに生じる核酸塩基の不対合を校正するために必要なタンパク質をコードする、DNAミスマッチ修復遺伝子に異常が生じていたことも観察されたとしている。
そして、この高頻度に発生する遺伝子変異により、再発時の腫瘍細胞では、がん細胞の増殖に関与するAKT-mTOR経路などのシグナル伝達経路の活性化や、がん抑制遺伝子の不活化も見られ、抗がん剤治療によって神経膠腫のゲノムに顕著な変化が起きていることが判明したという。
治療の注意点や選択に関する検討を促す契機に
神経膠腫では診療経過中に悪性に転化し、多くの患者が死亡する。この悪性転化のメカニズムについては未解明な部分が多く、再発時の治療法選択が困難であるという現状がある。
今回の研究は、とくに低悪性度の神経膠腫におけるアルキル化剤を使用する場合の注意点や、使用する抗がん剤の最適化に関して、重要な知見をもたらしたものであり、さらなる検討を促す契機であるといえる。(紫音 裕)
▼外部リンク
東京大学 プレスリリース
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/vcms_lf/
Mutational Analysis Reveals the Origin and Therapy-Driven Evolution of Recurrent Glioma
http://www.sciencemag.org/content/early/2013/