味の素と奈良県立医科大学の共同研究で明らかに
味の素株式会社は12月4日、奈良県立医科大学の國安弘基教授を中心としたグループとの共同研究で、がん患者における血液中のアミノ酸濃度バランスが変動するメカニズムの一端を、世界で初めて解明したと発表した。
味の素では、血液中のアミノ酸濃度バランスに着目した「アミノインデックス(R)がんリスクスクリーニング(AICS)」事業を実施している。これはがんに罹患すると、血液中のアミノ酸濃度バランスが変動するという近年の論文報告に基づくもので、5ml程度の血液を採取してアミノ酸濃度を測定。そのバランスの変化から、胃がんや肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん、子宮がん・卵巣がんの6種のがんリスクを一度にスクリーニングできるようにしたものであるという。同社は、株式会社エスアールエルと2011年4月より事業化して取り組んでいる。
今回の共同研究もその事業の一環で、動物モデルを用いた研究から、がん細胞から分泌されるたんぱく質HMGB1の作用により、正常な細胞内のたんぱく質がアミノ酸に分解されて、その一部が血液中に漏れ出ることで、血液中のアミノ酸濃度バランスが変動していることが分かったという。
(画像はプレスリリースより)
HMGB1が引き起こす骨格筋細胞のオートファジーが原因として関与
がん細胞は前がん状態からHMGB1を分泌する。研究によると、このたんぱく質HMGB1は血流にのって筋肉組織に到達、骨格筋細胞にまで届くと、糖を分解し、エネルギーを生産する際に重要な役割を果たしているピルビン酸代謝酵素PKM1の発現と活性を低下させることが確認された。
これにより骨格筋細胞はエネルギー不足となり、自ら細胞内のたんぱく質を分解する自己消化(オートファジー)を起こす。そうして得られたアミノ酸をエネルギー源として用い、不足を補うというわけだ。
骨格筋細胞で産生されたアミノ酸の一部は、血流にのり全身に運ばれる。がん細胞は、このアミノ酸を取り込み、増殖する際の栄養として利用していく。このようなメカニズムががん患者の血液中のアミノ酸濃度バランスを変化させているのであり、がん細胞の生み出したHMGB1が骨格筋細胞にオートファジーを引き起こす作用が、大きな原因のひとつであることが示唆されたとしている。
この研究成果の詳細は、米国がん学会学会誌「Cancer Research」オンライン版に11月6日付で掲載された。今後、本誌にも掲載される予定という。(紫音 裕)
▼外部リンク
味の素株式会社 プレスリリース
http://www.ajinomoto.com/jp/presscenter/press/
Cancer Research : Cancer usurps skeletal muscle as an energy repository
http://cancerres.aacrjournals.org/content/early/2013/11/06/