Th17細胞の分化誘導メカニズム解明、クローン病との関連も
大阪大学は11月26日、同大学大学院医学系研究科の竹田潔教授(感染免疫医学講座 免疫制御学)と、西村潤一助教、森正樹教授(外科学講座 消化器外科学)のグループの研究成果として、ヒト大腸の粘膜に存在する自然免疫細胞の一部が、炎症性T細胞(Th17細胞)の分化を誘導する仕組みを解明したと発表した。
さらに同研究グループは、特定疾患治療研究事業対象疾患にも指定されているクローン病において、この自然免疫細胞が異常に活性化し、Th17細胞を過剰に誘導する能力を有していることも確認したという。この研究成果は、米科学誌「Gaestroenterology」オンライン版に掲載されている。
(画像はプレスリリースより)
1つの細胞集団が炎症性サイトカインを産生、Th17細胞の分化を誘導
Th17細胞は近年、炎症性腸疾患(IBD)をはじめとする自己免疫性疾患の病因と深く関わっているものであることが明らかになってきている。これまでの研究では、マウスの腸管におけるTh17細胞の誘導や炎症抑制に関わる自然免疫細胞についての報告はみられるものの、ヒトの腸管における自然免疫細胞の役割については報告がなく、未解明な部分が多く残されていた。
研究グループは、まずヒトの大腸粘膜からT細胞の分化誘導に関係する細胞を回収。すると、その表面のタンパク質の発現により、4種類の細胞集団が存在していることが分かったという。
そこで、これらの細胞集団を調べたところ、このうちの1種(CD14+CD163low細胞)が、病原体を感知し、自然免疫を作動させるToll様受容体を発現。炎症性サイトカインIL-6、IL-23p19、TNFを産生するグループであることが確認され、Th17細胞の分化を誘導することが判明した。研究グループでは、このCD14+CD163low細胞を「Th17細胞誘導性自然免疫細胞」と名付けている。
Th17細胞誘導性自然免疫細胞は、マクロファージ様の形態で、遺伝子発現パターンから、マクロファージと樹状細胞の両方の特徴をもっている細胞であるという。
次に、このTh17細胞誘導性自然免疫細胞のクローン病腸管における機能解析を実施。正常腸管と比較して、クローン病腸管のTh17細胞誘導性自然免疫細胞では、炎症性サイトカインのIL-6、IL-23p19、TNF、IL-12p35の発現が顕著に増加していることが確認され、非常に高いTh17細胞の分化誘導能が存在すると示されたそうだ。
また、正常腸管のTh17細胞誘導性自然免疫細胞からは、IL-12p35の発現はほとんど見られないのに対し、クローン病腸管の同細胞からはIL-12p35も発現するようになっており、結果としてTh1細胞をも誘導されていることが分かったという。
クローン病の効果的な診断・治療法の確立に期待、他の自己免疫疾患の治療法開発へも
今回の研究を通じ、正常腸管におけるTh17細胞誘導性自然免疫細胞は、炎症性サイトカインを放出することで、炎症性Th17細胞を適度に誘導、病原体などから生体を防御していることが確認された。
その一方で、クローン病におけるTh17細胞誘導性自然免疫細胞は過剰な炎症性サイトカインの放出によって、炎症性Th17細胞を過剰に誘導するとともに、Th1細胞をも誘導しており、結果、腸の粘膜が攻撃されるにいたっていることが明らかとなった。よって、Th17細胞誘導性自然免疫細胞がTh17細胞免疫を介し、クローン病の発症および増悪に重要な役割を果たしていることが考えられる。
研究グループでは今後、このTh17細胞誘導性自然免疫細胞の簡便な同定法や制御法が開発されることにより、クローン病の効果的な診断・治療法の確立につながると期待されるとしている。
また昨今、腸内細菌叢の変化に伴う腸管免疫寛容の破たんが、IBDのみならず、関節リウマチや多発性硬化症など、さまざまな自己免疫疾患の発症に深く関与することが報告されてきている。自然免疫細胞は、腸管の恒常性維持に重要な役割を果たすものであるため、これを制御することで、さまざまな自己免疫疾患の治療や予防が可能となるのではないかと考えられている。
よって、実際の臨床現場で用いることができるような方法で、Th17細胞誘導性自然免疫細胞を制御することが可能となった場合、IBDだけでなく、他の多くの自己免疫疾患の治療法開発に結び付くことも期待され、今後の研究・開発に注目が集まっている。(紫音 裕)
▼外部リンク
大阪大学 プレスリリース
http://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/
Increased Th17-Inducing Activity of CD14+ CD163low Myeloid Cells in Intestinal Lamina Propria of Patients with Crohn’s Disease
http://www.gastrojournal.org/article/