HLA-A24陽性患者のNef134-10エピトープに注目
東京大学医科学研究所 岩本愛吉教授と同大放射光連携研究機構 分子細胞生物学研究所 深井周也准教授のグループは共同研究により、日本人HIV感染者にしばしば見られるHIVの変異と、それに対する細胞傷害性T細胞(CTL)受容体の結晶構造を解明したと発表。宿主の免疫反応から逃れようとするウイルスと、その変化に対応した免疫防御反応の一部を、臨床観察と構造生物学の連携により明らかにしたという。
これは、東京大学内の共同研究に加え、中国、カナダの研究者が参加した国際連携研究の成果で、東京大学より11月26日、発表された。論文は「Scientific Reports 3, 3097」オンライン版に11月6日付で掲載されている。
(画像はプレスリリースより)
研究グループは、日本人のおよそ6割がHLA-A24陽性であること、またそのHLA-A24によって提示されるHIVタンパク質中の10アミノ酸から成るNef134-10エピトープ(RYPLTFGWCF)に注目。変異のない野生型と2種類の変異型(Y135F変異、F139L変異)を対象として研究を行ったという。
Y135F変異は感染早期に出現する変異で、HLA-A24陽性HIV感染者間で蔓延している変異型ウイルスであることが、まず再確認された。一方F139L変異は、一部の感染者間においてのみ検出され、やや遅れて出現する変異であることが分かったという。
変異型HIVの免疫防御反応をかいくぐる機構の一端を解明
研究グループは、次にエピトープとHLA-A24との結晶構造、およびT細胞受容体(TCR)との三者複合体構造の構造解析を実施。すると、F139L変異はTCRとの結合能が低下することで生じる変異であることが示唆される結果が得られたという。
一方、Y135F変異では、エピトープとHLA-A24との相互作用が野生型エピトープの場合とは異なるものの、TCRはY135F変異型エピトープと正常な相互作用をみせ、変異型エピトープの認識が可能であることが分かったとしている。
以上からこの研究では、HIVの野生型、変異型エピトープを提示したHLA-A24分子との結晶構造解析、TCR分子との三者複合体結晶構造解析を行い、感染者の体内で生じているHIVと宿主免疫応答の攻防を再構成して示した。
本来ならば宿主免疫応答によるCTLによって、ウイルスは排除されるはずだが、Y135F変異型ウイルスは細胞内でのウイルス抗原の断片化に影響を及ぼし、HIVのみに免疫防御反応を起こさせる。Y135F変異型ウイルスは自身の姿を隠し、免疫レーダーを回避できるステルス性を装備したウイルスとなっていると推察され、CTLを誘導するような治療法では、完全に排除できない可能性が高い。
(画像はプレスリリースより)
同研究グループでは、こうしたHIVの変異を「ステルス変異」と名付けている。今回の治験を踏まえ、感染細胞内におけるウイルス抗原の断片化を変化させるような治療薬の開発の可能性を提案した。また、今後さらにステルス変異のメカニズムが明らかとなることによって、HIV感染治療の創薬開発へつながるものと期待されている。(紫音 裕)
▼外部リンク
東京大学 プレスリリース
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/files/
Structure of TCR and antigen complexes at an immunodominant CTL epitope in HIV-1 infection
http://www.nature.com/srep/2013/131106/srep03097/