トラウマ形成を仲介する分子特定
横浜市立大学大学院医学研究科の研究グループは、世界で初めて、特定の場所で受けた恐怖体験の記憶が形成される際に、これを仲介する分子を特定したと発表した。この研究成果は、日本時間の11月12日付けで「Nature communications」オンライン版に掲載されている。
(画像はプレスリリースより)
AMPA受容体シナプス移行とアセチルコリンの分泌増加
生活の様々な場面で、誰もが多くのストレスを感じている。なかでもより強くその嫌な気持ちが形成されると、トラウマとなり、対人恐怖症などの社会性障害を引きおこすとされている。全虐待の40%近くを占めると言われているネグレクトは、強いトラウマの原因になり、この環境で育つと将来的に社会性障害を引き起こすことが知られている。
同研究グループは以前、げっ歯類を用いた研究で、恐怖記憶が形成される際にグルタミン酸受容体の一つであるAMPA受容体が海馬のCA3領域からCA1領域にかけて形成されるシナプスに移行し、これが恐怖記憶形成に必要である、ということを発見している。
今回の研究では、このAMPA受容体シナプス移行が、アセチルコリンの分泌増加により仲介されているということを明らかにしたという。
研究内容と今後への期待
今回の研究は、ウィルスを用いた生体内遺伝子導入法、電気生理学的手法、そして行動学的手法を駆使し、以下のことを明らかにした。
「海馬に依存した恐怖記憶(Inhibitory avoidance task)が獲得される過程で、AMPA受容体の一つであるGluA1が海馬におけるCA3領域からCA1領域にかけて形成されるシナプスに移行してシナプス応答が強化されるが、この現象がアセチルコリンという物質の分泌増加により仲介されていること」(横浜市立大学プレスリリースより引用)
この結果により、PTSDなど心の傷に起因した社会性障害等の精神障害をコントロールする新薬の開発などが期待される。(たなか牡丹)
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公立大学法人横浜市立大学 プレスリリース
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