宿主細胞侵入に中心的役割を果たすRON複合体構成因子の相互作用を発見
帯広畜産大学 原虫病研究センター及び東京大学大学院 農学生命科学研究科の加藤健太郎氏らの研究グループは11月13日、トキソプラズマ原虫の宿主細胞侵入時に足場として利用する宿主因子を同定し、これまでほとんど分かっていなかった侵入機構における因子間作用の全容解明の足がかりを得たと発表した。
トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)の経口摂取で感染、発症するトキソプラズマ症は、妊婦の感染により流産や胎児の脳症をはじめとする先天性感染症を引き起こすほか、エイズ患者などに重篤な症状をもたらす人獣共通の感染症として知られている。これまで、トキソプラズマ原虫が、原虫の寄生対象である宿主細胞にアクトミオシンモーターの動力で侵入する際の原虫因子や、宿主細胞因子の同定に関する研究は進められてきたが、因子間の相互作用についてはほとんど分かっていない。
そこで、研究グループでは、細胞侵入時に宿主細胞側に移行する原虫RON複合体の構成因子であり、遺伝子欠損原虫の作成が成功しておらず原虫の生存に必須であることが予想されるTgRON4に着目し、宿主細胞結合因子の同定と結合領域に関する解析を進めたという。
(画像はプレスリリースより)
結合領域を同定、結合が侵入初期に生じることも解明
まず、トキソプラズマ原虫及び熱帯熱マラリア原虫RON4の組換えタンパク質をFcタグ付きの融合タンパク質として調製、宿主細胞膜分画との結合を調べた。そしてプロテインGを固定化した磁性ビーズにより、このFcタグ付き組換えRON4タンパク質と結合する宿主細胞因子を回収したところ、トキソプラズマ原虫(Tg)RON4とのみ結合するタンパク質が検出され、これは質量分析によりβ-チューブリンであることが判明したという。
次に、TgRON4と宿主細胞因子として見出されたβ-チューブリンとの結合領域を決定するため、それぞれの部分タンパク質を同細胞内で発現させ、結合の有無を調べていった。複数の検証を行った結果、β-チューブリンのC末端領域が結合に必要なことが判明したそうだ。さらにTgRON4のC末端近傍、154アミノ酸から成る領域がβ-チューブリンのC末端領域と結合することが確認された。
そこで154アミノ酸の配列について、データベース解析を行ったところ、熱帯熱マラリア原虫RON4などには類似するアミノ酸配列はなく、トキソプラズマ原虫と近縁のネオスポラ原虫にのみ類似配列が見つかった。
研究グループは、さらに宿主細胞因子β-チューブリンのC末端領域を発現させた培養細胞にトキソプラズマ原虫を感染させ、侵入初期サンプルとして解析を実施。感染細胞の溶解液において、β-チューブリンC末端領域と原虫自身のTgRON4の結合検出に成功した。また局在を調べたところ、β-チューブリンC末端領域はTgRON4の周囲に集積、あるいはTgRON4と密接な位置にあることが分かったそうだ。
今後の全体像解明に期待
今回の研究により、TgRON4の結合因子として宿主細胞のβ-チューブリンが同定され、相互作用を生じさせていること、またこれらの結合領域の確認、さらにその結合が侵入初期に生じることが明らかとなった。トキソプラズマ原虫の病原性と生存に必要不可欠な宿主細胞侵入機構において、未解明であった因子間の相互作用の全容解明へ道を拓いた点で、大きな研究成果であるといえる。
研究グループによると、すべてが寄生種であるアピコンプレックス門に属する原虫の多くは、RON複合体の構成因子と予想されるタンパク質をコードする遺伝子をゲノム中にもっているが、原虫の宿主域は種によって大きく異なるという。宿主細胞因子への結合に必要なトキソプラズマ原虫RON複合体タンパク質のアミノ酸配列を探索することにより、原虫種によって異なるRON複合体の機能を知ることができると同時に、原虫侵入阻止薬の開発につながる知見も得られるものと期待されるとしている。
なお、この研究成果はNature Publishing Groupの「Scientific Reports」に11月12日付で掲載されている。(紫音 裕)
▼外部リンク
東京大学大学院 農学生命科学研究科 プレスリリース
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2013/
Scientific Reports : Characterization of the interaction between Toxoplasma gondii rhoptry neck protein 4 and host cellular β-tubulin
http://www.nature.com/srep/2013/131112/