セントロメアではない染色体領域にも安定設置可能、その仕組みを解明
大阪大学大学院生命機能研究科の石井浩二郎招へい准教授の研究グループが、各細胞における染色体の動原体が、染色体上の新しい場所に設置される仕組みを解明したと発表した。
通常、動原体はセントロメアに設置されるものだが、セントロメアではない染色体領域にも安定に設置可能であることや、そのためには特定の型のヒストン蛋白質が排除されることが必要条件であることも明らかにしている。これらの研究成果は、米科学雑誌「Nature Structural & Molecular Biology」のオンライン版において、米国東部時間の11月3日に速報掲載された。
(画像はプレスリリースより)
安定維持には、ヒストンH2A.Zの有無が関与
動原体がセントロメアDNA以外のDNA配列上にも形成され得ることが、近年の研究で分かってきているが、そうした異なる領域での動原体の形成は、偶発的に生まれたセントロメアをもたない染色体断片を維持させる一方で、複数の駆動エンジンを1つの染色体上に作りだしてしまい、染色体の適正な動きを損なわせ、ゲノムを不安定化させてしまう。こうした働きの調整など詳細については、これまでよく分かっていなかった。
研究グループは、酵母を操作し、生きたまま1つの染色体のセントロメア領域を破壊する実験を進めてきていた。すると、大半の酵母は死滅するものの、一部はセントロメア以外の新しいDNA領域に動原体を形成して生き残ってきたという。
今回は、第三染色体のセントロメア破壊実験を行ったところ、他の染色体の場合と同様、生き残る酵母が見出されたものの、その細胞は病的であり、出現後死滅することが確認された。さらに調べたところ、細胞の中の新たに設置された動原体が不安定であることが原因であり、その不安定さはH2A.Zという特定型のヒストン蛋白質を含む領域に動原体が仮設置されたために、動原体の安定維持に必要な蛋白質の結合が低下した結果として生じていたことが判明したそうだ。
ヒストンH2A.Zを含まない領域に設置された動原体は、安定に維持されるほか、不安定だった動原体もH2A.Zをその設置領域から除去すると、安定に維持されるようになったことを確認している。
制がん治療の技術開発にもつながる可能性
ヒストンH2A.Zは遺伝子発現の高い染色体ゲノム領域により多く蓄積するものであり、染色体上の重要な遺伝子発現領域が動原体の形成領域と重複してしまうことを避けるための保証機構として、この仕組みが存在しているものと考えられている。
研究グループでは、秩序は保ちつつも硬直しない、染色体機能制御の適度に柔軟な、優れた側面が如実に感じられる発見だとしている。また新規DNA領域での動原体形成は、これまで様々な腫瘍細胞で確認されており、腫瘍形成とゲノム不安定性の間には深い関連性があるとみられている。そのため、この研究成果が将来的な制がん治療の技術開発に活かされる可能性もあると期待される。(紫音 裕)
▼外部リンク
大阪大学 プレスリリース
http://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/ResearchRelease/2013/
Nature Structural & Molecular Biology : Epigenetically induced paucity of histone H2A.Z stabilizes fission-yeast ectopic centromeres
http://www.nature.com/nsmb/journal/vaop/ncurrent/