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阪大 ドーナツビームと揺らぎの効果によりナノ粒子の均一化と配列に成功

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2013年11月07日 PM03:45

医薬品分離抽出技術に活用で、開発促進に期待

大阪大学大学院基礎工学研究科の伊都将司助教、大阪府立大学21世紀科学研究機構の飯田琢也テニュア・トラック講師らの研究チームは、特殊なレーザー光である「ドーナツビーム」を照射することで、金属ナノ粒子の水溶液から均一なかたちの粒子だけを取り出し、円環状に配列することに成功したと発表した。

この新技術は、薬の原料となるナノ物質の分離抽出などに応用することができ、新たな医薬品開発を強力に後押しするものとなると期待されている。

(画像はいずれもプレスリリースより)

光が物質に及ぼす力、揺らぎの効果に着目

近年、古代から生息する光合成細菌中で光捕集機能を担う「光合成アンテナ」のメカニズムについての解析が進んでいる。その結果、色素分子が円環状に配列して、さまざまな方向の変更を有する太陽光を高効率に集めて、1個の光子をほぼ100%といえるほどの効率で1個の電子に変換できていることが分かってきた。こうした機能の進化プロセスにおいては、外部刺激としての太陽光と、環境揺らぎの効果が大きな役割を果たしたとみられている。

一方、レーザー光が物質に与える「光誘起力」を用いると、約25度という常温の液体のような揺らぎの効果が顕著な環境下でも、ミクロン以下の物体を操作できるという事実がある。また研究グループでは、金属ナノ粒子間の距離が接近した場合に、直接偏光を照射すると、偏光と同方向の引力が発生し、偏光に平行なかたちに粒子を並べられるのではないかと理論的に考えてきていた。これらをもとに、光合成アンテナの空間パターンに似たドーナツビームによる光誘起力を用い、非生物の金属ナノ粒子でも、光に対して最適な応答を示すシステムを選択的に構築可能なのではないかと、研究を進めたという。

水中銀ナノ粒子で実証

研究では、まず銀ナノ粒子の水溶液に、倒立型顕微鏡の高倍率対物レンズで強く絞った赤外の波長域(1,064nm)かつ放射状の偏光分布をもつドーナツビームをスライドガラス状に下から照射した。そして、光誘起力と揺らぎの効果により、ナノ粒子がどのような配列に並ぶかを、独自の評価理論手法で解析を行ったそうだ。

すると、もともとの銀ナノ粒子は白色光をあてると青色の光散乱を示していたものの、ドーナツビームで集積した銀ナノ粒子は橙色の円環状の光散乱を示したという。集積した状態を電子顕微鏡で観察すると、もとの水溶液中には少数しかいなかった細長い銀ナノロッドが多数存在していたことが判明した。

比較実験としての短波長ドーナツビームによる実験では、球形に近い銀ナノ粒子が集積するなど、波長で全く異なる形状の粒子を選択的に配列できることが確認された。

そして、光散乱の色の変化について、分光実験で調べたところ、もとの銀ナノ粒子溶液の400nmの紫外波長域にピークをもつ光吸収スペクトルとはまったく異なり、800nm以上の赤外波長域にピークが現れていることが分かった。研究グループは、このほか配列構造の共鳴波長がドーナツビームの波長に近づく様子を再現することにも成功している。

これらの実験結果と理論計算により、光誘起力と揺らぎの効果で、照射したビームに対し、最適な光応答を示す非生物ナノ粒子の集合体が構築可能であることが示された。

多方面での応用に期待

ナノ粒子のサイズや形状、配列を制御する技術は、多岐にわたる研究分野で求められているほか、産業界からのニーズも高い。医療分野でも、医薬品開発を始め、遺伝子検査やアレルギー物質検出などに役立つ光バイオセンサー用の金属ナノ粒子や触媒用ナノ粒子の特性制御などに活用できる技術として期待される。

今回の研究では、主に水中の銀ナノ粒子を対象としているが、異種の金属ナノ粒子が混在した場合の選別、有機高分子から成るナノ粒子・生体分子の集合体の分離分析にも適用が可能と見込まれている。

研究グループでは、今後、ドーナツビームの波面制御や複数ビームの発生により、さらに高精度かつ高効率なナノ粒子の選別・配列が可能となることで、高純度の医薬品開発を進められるほか、幅広い基礎科学分野にブレークスルーをもたらす画期的な技術となるのではないかとみている。(紫音 裕)

▼外部リンク

大阪大学 プレスリリース
http://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/ResearchRelease/

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