防止策の一つである「生物統計・臨床疫学等の専門家や、メディカルライティングの育成」は、公的またはそれに準ずる組織が、スポンサーとは独立した形でプロトコル作成から統計解析・論文作成まで、一貫して業務に携わるシステム構築を目的としている。
シンポジウムでは、GCPに対応しない臨床試験・研究において質および信頼性(公正さ、モニタリング、データ管理統計解析など)の確保には、臨床試験企画段階からの複数の臨床疫学・生物統計学専門家の参画が必須となることを改めて確認した。
一方、シンポジストの有馬久富氏(シドニー大学ジョージ国際保健研究所)は、同保健研究所の臨床試験の質を高める取り組みについて言及。臨床試験の不正をモニターするための「標準業務手順書の作成」や「試験の企画・実行・データ管理・統計解析・論文作成はスポンサーと独立して行っている」ことを紹介した。
続いて、植田真一郎氏(琉球大学臨床薬理学)は、循環器領域における医師主導研究の問題点を指摘した。植田氏は、「診療上のバイオマーカーの目標値の妥当性の不確立」や「製薬会社の関心が新薬・高価な薬剤のプロモーションにあるため、古く廉価な薬剤は無視される」など現状の問題点を列挙。その上で、「リスク・オブ・バイアスを認識して、目的に合った倫理的にも問題のない実現性のある研究デザイン作成」の重要性を呼びかけた。
漆原尚巳氏(慶應義塾大学薬学部医薬品開発規制科学)は、「臨床研究におけるエンドポイントの取り方が、試験結果を大きく左右する」と断言。「ソフトなエンドポイントを設定するほど、主治医の主観が入りやすくなる」と解説し、「良い結果を得るために、途中からエンドポイントを変更することは絶対にあってはならない」との考えを強調した。
製薬企業の立場からは稲垣治氏(日本製薬工業協会)が発言。「アカデミアへの報酬は、臨床研究の対価とすべきものを、ディオバン問題では寄付として支払われていた」と問題点を指摘し、「企業と医療機関の透明性がより明確になるように、さらなる努力を重ねていきたい」とした。
臨床研究費が営業部門から出ている現状についても、「製品を使った試験の依頼は、営業部門から切り離して科学的に判断できるように推し進めている」と報告した。
宮田靖志氏(北海道大学卒後臨床研修センター)は、「製薬企業と適切な関係を保って臨床試験を行うには、医学教育・日常臨床における医学生・臨床医、オピニオンリーダーと製薬企業の関係にまで遡って考える必要がある」と断言。
さらに、今回の問題の背景の一つに奨学寄付金の問題が挙げられているが、「医師、製薬企業担当者の中には寄付金のあり方に疑問を持つ声があるが、その適正化について積極的な議論はなされていない」と現状を指摘。「医学生からの利益相反の教育実施に加えて、医学生、臨床医、オピニオンリーダーと製薬企業の関係を見直す必要がある」との考えを示した。