RNAを切り貼りするスプライシングパターンもiPS細胞過程で初期化
京都大学CiRA/京都大学大学院生命科学研究科の太田翔大学院生、京都大学CiRA/京都大学iCeMS山本拓也助教らの研究グループは、10月18日、大規模な遺伝子解析によって、体細胞からiPS細胞へと初期化する過程で、RNAスプライシングパターンも初期化されることを発見したと発表した。なお、今回得られた研究成果は、米国東部時間10月17日12時に、米科学誌「Cell Reports」オンライン版に掲載されている。
RNAを切り貼りするスプライシングパターンは、各細胞に固有の機能や特性を生み出す大きな要因を握っている。分化した細胞に初期化因子を導入することでiPS細胞への初期化が起こるが、その過程でスプライシングパターンにも変化が起きているかどうかは、これまで明らかにされていなかった。
まず研究チームは、初期化前後でのスプライシングの違いについて調べるため、線維芽細胞、ES細胞、線維芽細胞から樹立したiPS細胞それぞれのmRNA配列を解析した。すると、線維芽細胞のスプライシングパターンがiPS/ES細胞に特徴的なスプライシングパターンへと変化したことが確認されたという。
(画像はプレスリリースより)
スプライシングを制御するタンパク質を同定
特徴的なスプライシングパターンを決めているメカニズムには、RNAに結合するタンパク質制御が深く関わっていると考えられたため、RNA結合タンパク質のなかから、とくにiPS/ES細胞で特異的に働いているタンパク質を作る遺伝子の92種を選出。それら遺伝子をRNA干渉法を用いて観察すると、9種のRNA結合タンパク質がスプライシングパターンに影響を与えていることが分かった。
これらのタンパク質が働かないようにした結果、U2af1とSrsf3という2つのタンパク質がそれぞれ働かない場合に、iPS細胞ができる効率が大幅に低下したという。よって、体細胞が初期化される際に、U2af1とSrsf3がRNAスプライシングに大きな影響を与えていることが確認された。
この研究は、選択的スプライシングについて、大規模なゲノム全体での解析を実施し、細胞が初期化される過程でスプライシングパターンやスプライシングを制御するメカニズムが変化していることを明らかとした。またその制御タンパク質としてU2af1とSrsf3を見出し、同定した点も大きな進展といえる。
これらの成果は、将来のiPS細胞の品質評価やiPS細胞作製時の効率性および安全性を改善し、支えていく知見のひとつとなると期待されている。(紫音 裕)
▼外部リンク
京都大学iPS細胞研究所 プレスリリース
http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/
Cell Reports : Global Splicing Pattern Reversion during Somatic Cell Reprogramming (該当論文)
http://www.cell.com/cell-reports/