この取り組みは、米国の医師と薬剤師の契約による共同薬物治療管理(CDTM)を参考にした「プロトコルに基づく薬物治療管理」(PBPM)の一環として実施するもの。同院の病院長と薬局の代表者が合意書を交わして実行する。
同院は、院外処方箋応需枚数が多い門前の9薬局と近隣の1薬局に取り組みへの参加を呼びかけた。薬剤部スタッフと近隣薬局の定期的な合同勉強会の席で説明を受けた10薬局全てが呼びかけに応じ、このほど薬局代表者名を記入した合意書を同院に提出。院長名で押印された合意書が23日以降に返送された。
疑義照会を不要とするのは、▽同一成分名の銘柄変更(薬剤料が高くならない範囲で先発医薬品間でも可能)▽散剤から錠剤、OD錠から通常錠などへの剤形変更(安定性、利便性向上の目的のみ)▽5mg錠1日2回を10mg錠1日1回など別規格への変更(同)▽コンプライアンス等の理由によって半割、粉砕、混合する場合(無料で行う場合のみ)▽患者希望あるいはコンプライアンス等の理由による一包化調剤(同)▽70mg7枚入り5袋を70mg5枚入り7袋に変更するなど湿布薬や軟膏の規格変更(薬価が高くならない場合のみ)▽OD錠から通常錠に変更するなど一般名処方時の類似剤形先発医薬品への変更▽残薬調節のため日数を短縮して調剤する――の計8項目。
「いずれも医師が薬剤師から疑義照会を受けても必ずイエスと回答するような項目しかない」と京都大学教授・同病院薬剤部長の松原和夫氏は話す。薬局薬剤師からの疑義照会の多くは、調剤上の単純な変更で、本来の疑義には該当しないと考えられる。多忙な医師は、その受け答えに診療や手術を中断せざるを得ず、薬局薬剤師にとっても多忙な医師をつかまえて確認をとる作業が負担になっていた。
それを簡略化し、医師と薬局薬剤師の業務負担を軽くする。疑義照会に費やしていた時間が削減されることによって、薬局での患者の待ち時間は短くなる。また、浮いた時間を使って医師や薬剤師が診療や服薬説明などの業務に集中しやすくなり、医療の質の向上にもつながると期待できるという。
「院内の医師は歓迎している。薬局薬剤師もぜひやりたいと好意的に捉えている」と松原氏。10薬局の疑義照会のうち約半分を削減できると見込んでいる。
これら8項目については、医師への疑義照会は不要だが、薬局薬剤師は患者に十分に説明し同意を得る必要がある。
基本的には患者の費用負担増は発生しない範囲での運用を定めているが、別規格への変更については費用負担が若干高くなる可能性があるため、野放図な運用を防ぐ目的で、同院の方針を理解している薬局と個別に合意書を締結する方式にした。「門前薬局と小さな病院で取り決めている事例は他にもあるだろうが、大病院がきちんとした形で合意書を交わし、運用するのは珍しいのではないか」と松原氏は語る。
■外来チーム医療の一員に
同院はこの取り組みを、外来患者のチーム医療の一員として薬局薬剤師に役割を発揮してもらう体制の一部と位置づけている。今年8月からは、薬局薬剤師が得た情報を医師にFAXでフィードバックし、次回の処方設計に役立ててもらう「トレーシングレポート」の活用を開始。今年9月末からは、院外処方箋を発行する全ての外来患者を対象に、腎機能や副作用などの指標になる13項目の検査値を院外処方箋の下部に表示するようにした。
病院と薬局の連携を深め、患者のQOL向上、薬物療法の効果や安全性を高めるのが狙いだ。今後も「この連携に加わりたいと意思表示し、実績もあれば、対象薬局を拡大していこうと考えている」と松原氏は話す。
これまで同院の病棟における薬剤師の業務を拡充してきたことが、疑義照会不要項目を策定するきっかけになった。医療スタッフの負担軽減や安全性向上などを目的に、薬剤師が服薬状況、残数、副作用などを評価した上で内服薬定期処方Doオーダ入力を担当するプロトコルを作成し運用してきた。さらに今年6月頃には、服薬状況に応じた一包化、規格変更、剤形変更、粉砕や混合は、医師の確認なしに薬剤師の権限で処方を修正できるプロトコルを追加。薬局薬剤師にも同じ概念を応用できるのではないかと思い立ち、すぐに枠組みを作ったという。