世界で初めて動物で実証
神戸大学医学部附属病院・血液内科の片山義雄講師(JSTさきがけ研究者兼任)と北海道大学大学院歯学研究科・口腔先端融合科学分野の佐藤真理助教らの共同研究グループは、骨細胞が骨髄と胸腺の環境整備とともに、脂肪細胞や肝臓における脂肪の貯蓄と出入りをコントロールしていることを世界に先駆けて発見。免疫や脂質代謝異常のような疾患に、骨をターゲットとした新たな治療法の可能性を示した。研究成果は10月18日に発表され、米国科学雑誌「Cell Metabolism」オンラインに掲載されている。
(画像はプレスリリースより)
メカノセンサーだけではない骨細胞の役割とは
骨は単なるカルシウムの塊ではなく、生きた骨細胞による動的な組織であることが近年注目されている。骨の中で長い細胞突起を伸ばし、互いにネットワークを形成している骨細胞は、体にかかる重力や運動刺激を感じ取るメカノセンサーの役割を持つことが知られているが、全身にどのような影響を及ぼしているのか、これまでわかっていなかった。
骨細胞ネットワークの破壊で検証
無重力環境にいる宇宙飛行士や寝たきりの患者では、通常の10倍ものスピードで骨量が減少するが、それだけでなく、免疫の低下やホルモンの代謝異常等も引き起こされる。研究グループでは、重力刺激が入らないことによる骨細胞の異常と免疫や代謝とのリンクの可能性について、骨細胞のネットワークを乱すことで検証を行った。
免疫細胞の生育環境に影響
研究では、ジフテリア毒素受容体を骨細胞のみに発現させた遺伝子組み換えマウスを用いた。このマウスにジフテリア毒素を投与すると、骨細胞が傷害され、骨細胞同士のネットワークが乱れる。そのとき、血液中ではBリンパ球やTリンパ球が著しく減少していた。これは骨細胞がダメージを受けることで単純にリンパ球が影響を受けるのではなく、Bリンパ球とTリンパ球をそれぞれ育てる骨髄と胸腺のストローマ細胞の消失によるものであることが、明らかになった。このことから、骨細胞はリンパ球の生育環境の整備することで免疫をコントロールしていることが推察される。
骨のダメージで激ヤセ、脂肪肝も
さらに、この骨細胞が弱ったマウスはみるみる体重が減少、食べても痩せていき、全身の皮下組織や内臓脂肪の消失が起きたという。脳視床下部の摂食中枢を破壊して骨細胞にダメージを与えたマウスでは、脂肪は無くなるが肝臓に脂肪が溜まり、激烈な脂肪肝となる。これらから、骨細胞は全身の適切な脂肪量を維持し、脳と協調して肝臓への脂肪貯蓄と出入をコントロールしていると考えられる。
この胸腺の萎縮と脂肪の消失は、ダメージを与えたマウスと正常マウスの血液循環をつなげるパラバイオーシスという方法で、血液中のホルモン等の液性因子を正常化しても回復しなかったという。
研究グループでは、骨芽細胞がホルモンを介して膵臓や精巣をコントロールしていることは知られているが、骨から離れたところに位置する胸腺や脂肪を、ホルモンやミネラルを介さずにコントロールしていることは、大きな発見だとしている。これにより、骨を標的臓器とした治療が、多くの病気の根本的な治癒につながる可能性が見込まれる。同時に、高齢化社会における健康増進や病気予防のためのトレーニング等においても、骨をターゲットとしたプログラムを取り入れることで、より高い効果が得られると考えられる。(長澤 直)
▼外部リンク
国立大学法人神戸大学 プレスリリース
http://www.kobe-u.ac.jp/