mRNAを含む顆粒が分子タイマー
国立大学法人北海道大学は、同大学大学院理学研究院小谷友也准教授らの研究グループが、脊椎動物の卵に存在するmRNAを含む顆粒が卵の分子タイマーとして働くことを解明したと、10月11日発表した。
(画像はwikiメディアより引用)
正確な時間制御による卵の形成
生命現象における「時間」の制御は、遺伝情報を正確なタイミングで蛋白質に変換することで進行する。特に卵細胞の成熟過程では、蛋白質合成が数分の単位で調節され、その正確な制御によって精子と受精可能な正常な卵が形成される。卵の成長過程で遺伝子の転写産物であるmRNAが大量に蓄積するものの、すぐに蛋白質合成に向かわず、適切なタイミングで蛋白質になり、受精や個体形成でそれぞれの役割を果たすことがわかっていたが、卵に蓄積されたmRNAがどのようにして、正確なタイミングで蛋白質に変換されるのかは未解明であった。また、初期胚や神経系組織の多様な細胞において、mRNAが、顆粒を形成し、細胞内に蓄積されることが最近報告されている。この顆粒の役割は未だ解明されていなかった。
cyclin B1 mRNAの動向を解析
研究グループは、ゼブラフィッシュとマウスを用いて、卵に蓄積されたcyclin B1 mRNAの状態を最新の検出法で観察。さらに外来遺伝子を導入したゼブラフィッシュを作製し、顆粒を形成しないmRNAを解析した。また、cyclin B1 mRNAの顆粒形成は卵内のアクチン繊維に依存していることを見出し、顆粒を拡散させることで蛋白質合成のタイミングが変化するか、また顆粒を安定化させるとタイミングが変化するかを解析した。
mRNA顆粒は卵の成熟過程で消失
マウスとゼブラフィッシュの卵にはいずれもcyclin B1 mRNAが多数の顆粒を形成して存在し、その顆粒は卵が成熟する過程でほぼ完全に消失。そのタイミングはmRNAから蛋白質が翻訳されるタイミングと一致していた。さらにアクチン繊維を脱重合し、顆粒を拡散させると、蛋白質が合成されるタイミングは大幅に早まり、アクチン繊維を安定化して顆粒の消失を阻害すると、mRNAから蛋白質は合成されなかったという。また顆粒形成にはPumilio1と呼ばれるRNA結合蛋白質が関与し、これに結合せずに顆粒を形成しないmRNAは、蛋白質に合成されるのが早まっていた。これらから、卵に蓄積されたmRNAは、顆粒の形成と消失で蛋白質合成のタイミングを調節していることが明らかになったとしている。
受精のしくみや不妊の原因解明に寄与
cyclin B1 mRNAが正確なタイミングで蛋白質になることは、受精可能な卵の形成に不可欠。このタイミングにずれが生じると、紡錘体形成が正常に起こらず、染色体が分配されないため、精子との受精が成立しない。したがって、卵に蓄積された大量のmRNAの蛋白質への変換タイミングが、卵形成に非常に重要である。この結果は不妊の原因解明の一端となり、あらたな治療法の開発にもつながる可能性があるとしている。今後さらに多様な細胞に存在するRNA顆粒の役割の解明が進むことが期待される。(長澤 直)
▼外部リンク
国立大学法人北海道大学 プレスリリース
http://www.hokudai.ac.jp/