■まず審査業務で確実に活用
医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、9月1日付で「次世代審査・相談体制準備室」を立ち上げ、2016年度をメドに、申請データの電子的提出を製薬企業に義務づける新たな方針を打ち出した。日本でも規制当局が開発品目の個別症例データ(生データ)解析を行い、承認審査等に生かしていくことが必要と判断。これまでにない大きな審査体制の変更となる。同準備室の鹿野真弓室長は、「製薬各社への影響が大きいため、失敗は許されない。企業が十分に対応できる形で準備を進め、まず審査業務で確実に電子データを使えるようにしたい」と決意を語った。将来的には、申請資料の全面電子化も視野に入れる。
PMDAは今年に入り、製薬企業に申請データの電子的提出を義務づけ、生データ解析を実施する方向で検討を開始した。既に米国FDAは、約10年前からモデリング&シミュレーション(M&S)の活用を推し進め、申請データの提出に世界標準の臨床試験データ交換規格「CDISC」の利用を推奨している。
欧州EMAも今年1月、M&Sを審査業務に導入。中国CFDAは7月に、医薬品臨床試験データの提出とデータベース化に向けた5カ年計画を発表。さらにCDISCの採用の検討も開始するなど、電子化の流れが一気に加速してきた。
こうした状況を受け、日本のPMDAも申請データの電子化や先進的な解析手法を導入し、承認審査に活用することが必要と判断。6月に閣議決定された政府の健康・医療戦略で、PMDAの強化が打ち出されたことも追い風に、次世代審査・相談体制準備室を立ち上げ、生データ解析に乗り出すことになった。鹿野室長は、「これ以上、世界的な流れに後れを取るわけにはいかないというのが大きな要素になった」と話す。
今回の事業は、PMDAが製薬企業から電子的に生データを受け取り、独自の視点で解析することが焦点となる。臨床試験の主要な解析等で問題がないか確認したり、各社の品目のデータを横断的に解析して、薬効群ごとの網羅的な情報を治験相談や審査に活用することを想定している。
鹿野室長は「審査に上がってくる全品目のデータ解析は、審査当局のPMDAだからこそできる仕事であり、その結果を社会に還元していきたい」と意気込みを語る。当面は、簡単な部分集団解析等を手がけ、審査業務で確実に電子データを活用できるようにすることを目標に掲げる。
また、今回の事業では、承認申請を行う全ての製薬企業に対し、CDISC標準の電子データ提出を義務づけるため、企業側も大がかりな体制変更が求められることになる。鹿野室長は「あくまでも16年度の義務化は目標。CDISC標準に対応できていない中小のメーカーも考慮し、経過措置期間は相当に置かなければいけない」と慎重に進める姿勢を示す。
ただ、今回方針を公表したのは、申請データの電子的提出に向け、早めの社内準備を促す狙いもある。既にPMDAは今月から、申請データ電子化に向け、技術的な検証を行うためのパイロット試験に着手。鹿野室長は「来年度からは審査業務を想定した形で、ある程度データ解析を行っていくことになる。これから審査員の研修をしなければいけないし、人員体制の強化も不可欠になってくる」と課題を挙げた。
今後、申請データの電子的提出が義務化されると、照会事項があってもPMDAが自ら解析を行って確認できるようになるなど、企業側の大幅な負担軽減が期待される。また、データの電子的提出により、紙資料の必要がなくなることも想定され、鹿野室長は「申請資料の全面電子化も想定していかなくてはならない」との考えを示している。
将来的には、申請された全品目データの横断的な解析結果を活用することで、日本人に適した臨床試験デザインや開発計画への助言に役立てたい考え。今後、準備室についても正式な組織に昇格させる予定であり、パイロット試験の結果を踏まえ、体制作りを検討していくことにしている。