椎間板ヘルニアや腰痛症の発症機構解明
独立行政法人理化学研究所は、老化に伴って生じる腰椎椎間板変性症(LDD)の発症に関連する遺伝子「CHST3」を発見したことを、10月9日発表した。
(画像はプレスリリースより)
腰痛発症は環境要因と遺伝的要因
老化に伴う変性によって生じる骨や関節の疾患のなかでも、腰椎椎間板変性症(LDD)は最も頻度が高い。有病率30%と言われる腰痛症や、椎間板ヘルニアの起因となるLDDは、腰に負担がかかる動作等の環境的な要因だけでなく、遺伝的要因で発症する多因子遺伝病であると考えられている。研究グループはこれまでにLDHの原因遺伝子を世界に先駆けて発見しているが、LDDの遺伝的要因や、それを引き起こす病態の解明には、LDD発症に関わる遺伝子の特定が必須である。そこで、LDHの専門医集団「腰椎椎間板ヘルニアコンソーシアム」および香港やフィンランドの大学からの協力を受け、多段階のゲノムワイド相関解析を行ったという。
25,000人のゲノム解析から絞り込み
研究では、全ゲノムのからLDD原因遺伝子の存在する領域を絞り込み、日本人LDH患者と対照者、計3,600人のDNAサンプルを用いて、55万個の一塩基多型(SNP)から病態と強く相関するSNPを複数同定。これらのSNPを、日本人、中国人、フィンランド人からなる25,000人の集団を用いて相関解析を実施、最も強く相関するSNPを見つけ出した。このSNPを含む領域は、香港の大学が中国人のLDD患者18家系のゲノムワイド連鎖解析で強い相関を示した領域と重なっていた。この両者の研究から示された領域にある遺伝子「CHST3」が、LDDと関わっていると考えられたとのことだ。
病変部位でCHST3発現亢進
CHST3の発現パターンを、LDDの主な病変部位である軟骨、椎間板、骨で調査したところ、これらの組織でのCHST3発現は高くなっていた。CHST3の詳細な解析により、CHST3の特定の部分にLDDと非常に強い相関を示す別なSNPがあること、CHST3から転写されたメッセンジャーRNA(mRNA)の配列のうち、翻訳されない末端の領域に、翻訳を抑制するマイクロRNAとの結合配列があること、このSNPによってCHST3のmRNAが不安定化し、mRNA量が減少することがわかった。
今後、分子レベルでのLDDの病態解明において、新しい予防法や治療法、治療薬の開発等に、この研究成果が貢献するものとしている。(長澤 直)
▼外部リンク
独立行政法人理化学研究所 プレスリリース
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