生体内での亜鉛のながれに着目
順天堂大学大学院医学研究科・代謝内分泌内科学の藤谷与士夫准教授らの研究グループは、膵β細胞から分泌される亜鉛が、肝臓でのインスリンの分解を抑制するメカニズムを発見したと発表した。
(画像はプレスリリースより)
なお、この研究は、理化学研究所、杏林大学、慶應義塾大学との共同研究で行われたという。
生体内の亜鉛の恒常性維持を担う亜鉛トランスポーター(ZnT8)は、膵β細胞のインスリン分泌顆粒内に亜鉛を組み入れている。その機能が低下すると糖尿病の発症リスクが高まることはゲノム解析で報告されているが、仕組みはわかっていなかった。そこで研究グループは、生体内の亜鉛のながれに着目し、実験を行った。
まず、膵β細胞でZnT8を欠損するマウスを作製。すると、そのマウスでは、インスリン分泌顆粒内の亜鉛が枯渇して正常なインスリン結晶構造が作られず、糖を与えると軽い耐糖能異常があり、インスリン濃度は低かった。そこで、膵β細胞からのインスリン分泌を調べたところ、予想に反して正常マウスの約2倍とインスリン分泌は高かった。しかし、同時に亜鉛が分泌されないために、肝臓で過剰にインスリンが分解されてしまい、全身に送られるインスリン量は減少することをつきとめたという。
一方、正常なマウスでは、インスリンと同時に亜鉛が分泌されて肝臓へながれこむ。この亜鉛のながれが、肝細胞へのインスリンの取り込みと分解を抑制し、末梢組織でのインスリン量を保つという新たなメカニズムが明らかになったとしている。
亜鉛トランスポーターの機能が新たな糖尿病治療のターゲットに
ヒトにおいてZnT8遺伝子は、一塩基多型により2つのタイプがある。機能が弱いほうのタイプは、肝臓のインスリン分解が亢進して末梢血中のインスリン濃度が低いため、膵β細胞はより多くのインスリンを分泌する必要があることがわかった。つまり、遺伝子変異で亜鉛の分泌量が低下すると、膵β細胞に過剰な負荷がかかり、2型糖尿病のリスクを高める可能性があるという。
今回、糖尿病の発症に関わる亜鉛の役割が解明されたことで、膵β細胞での亜鉛トランスポーターの機能を高める薬の開発など、新たな治療法が期待されるとしている。(馬野鈴草)
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順天堂大学 プレスリリース
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