ライフプランを書面に残す必要性
急速な少子高齢化を背景に、成年後見制度の利用者が増加。2012年の最高裁資料によると、親族ではない第三者後見人(司法書士や弁護士等の専門士業が成年後見人となる場合)が親族後見人より初めて多く選任されるまでに増加している。そうしたことを背景に、8月31日、横浜で株式会社健育社主催の「“ありがとう”を書いてみる 医療の事前指示書と遺言」と題したセミナーが多くの一般生活者を集めて開催された。
(画像はセミナー風景)
成年後見制度の中の任意後見では、契約受任者に対し判断能力があるうちに自分の財産管理や将来の任意後見事務への希望を述べる【ライフプラン】を書面に残す対応策が考案・利用されている。そこには親族の相続、保険などの金銭管理に加え、介護が必要になったときや住所を移動する場合などの事務的な事から、医療を受ける場合の想い(病院の指定や入院の希望、延命治療について、医療行為に関する承諾権者の指定、尊厳死に対する考え方など)までも含まれている。
しかし、医療行為に対しては、成年後見人には身上配慮義務はあるものの、医学的侵襲に関する決定権や同意権に関する規定がなく、医療機関や家族との狭間で苦慮する日々が続いている。
講演者の1人、神奈川県司法書士会副会長 加藤正治氏は、第三者後見人として選任・活動する中で、「自分の想い」が伝わっていないと、周りの親族・支援者・成年後見人の都合や人生観ときには打算により自分らしい人生・尊厳が歪められてしまう危険性があるため、自らを書き記す必要性を指摘した。
東京大学大学院医学系研究科医療倫理学分野客員研究員 兼箕岡医院院長、臨床倫理学会総務担当理事の箕岡真子氏は、認知症を事例に、悪化するに従い出てくる嚥下困難による胃瘻の装着等の医療の課題を講演。
自分の意思がなくなったとき、代わりに医療の決定を代行してもらいたい人の選任(医療の代理判断者の選定)や、延命に関する処置への考えなども含めた記録を残すことの重要性を説明。法制度化されていないものの、事前指示書をかかりつけ医に渡すことで、医療従事者はその意向をくみ、家族と共に満足いく医療決定と、寄り添い方の決定のための大切な軸になる、と述べた。
誰もが迎えるからこそ、「自律」することが重要
同セミナーでは、昨年10月に肺カルチノイドで41歳の若さで他界した流通ジャーナリストの故・金子哲雄氏の妻であり、「死後のプロデュース(PHP新書)」を上梓した金子稚子氏も登壇。
闘病中に作成した哲雄氏の公正証書遺言に故人の思いや願いの記された「付加事項」があることにより「思い」の入った引き継ぎがなされ、死後でも故人とつながり続けることができると語った。金子氏は、死は終わりではなく通過点であること、生き抜いて、その後の残される周りの方の心に残すものまで、医療と司法の両輪を自らが使っていくことの大切さ、そして、自らの最期を考えるのは早すぎることはなく機会があればすぐに行って欲しい、ということを述べた。(QLifePro編集部)
▼外部リンク