iPS細胞がん化とがん幹細胞
慶應義塾大学と産業技術総合研究所の共同研究グループは抗がん剤が効かない前立腺がんを抗がん剤が効くように細胞状態を初期化する薬剤を発見した。また幹細胞性を利用した薬剤探索プロトコル、「薬効リプログラミング」は多方面の活用が期待される。
(Wikiコモンズを利用)
iPS細胞は再生医療、創薬の切り札として期待されるが、実用化における問題点のがん化の危険性は未解決である。一方、がん治療では組織幹細胞と類似のがん幹細胞が存在すること、抗がん剤の効かない耐性がん細胞が多能性のがん幹細胞であることがわかり、がん幹細胞をターゲットにした試みが行われている。従ってiPS細胞がん化、がん幹細胞、抗がん剤耐性がん細胞の関連が注目されつつある。
がん細胞をリプログラミングする
膨大な時間と費用のかかる新薬開発で近年、既存薬を転用するドラッグ・リポジショニングが注目されているが、既存薬と疾患の組み合わせはセレンディピティに頼っている現状がある。
研究グループは前立腺がん細胞から多能性幹細胞の遺伝子転写因子OCT4が高発現している細胞としていない細胞を分離し、高発現の細胞が抗がん剤耐性がん細胞である可能性をつきとめた。次に抗がん剤耐性前立腺がん細胞を感受性がん細胞にリプログラミングする薬剤を探索した結果、抗ウイルス剤リバビリンを見つけた。耐性がん細胞にこれを添加すると抗がん剤ドセタキセルの薬効が再びあらわれた。
薬剤探索プロトコル「薬効リプログラミング」は抗がん剤が効かないがんや他の疾患の新規薬剤開発、iPS細胞のがん化やがん幹細胞の分子メカニズムなどの解明につながると期待される。(馬野鈴草)
▼外部リンク
慶應義塾大学プレスリリース
http://www.keio.ac.jp/