免疫系の老化に関与する蛋白質Satb1
大阪大学、東邦大学などの共同研究グループは血液・免疫細胞を生み出す造血幹細胞において核クロマチン構造を調節する蛋白質Satb1が加齢とともに低下することを発見した。また老化した造血幹細胞を骨髄から分離してSatb1を発現させると、リンパ球を産生する能力が部分的に回復することも明らかにした。
リンパ球造血の初期過程は老化に伴い衰える。その原因は造血幹細胞の質的変化と考えられるが、免疫系の老化に関係する遺伝子は不明だった。造血・免疫系の加齢による変化は、高齢で発症する白血病・リンパ腫の病型、血液系の悪性腫瘍にも影響を及ぼすため解明が待たれる。
研究グループは造血幹細胞と目される細胞集団から早期のリンパ球前駆細胞を分離・培養する方法を開発した。細胞集団は高いリンパ球産生能力をもつ多能性前駆細胞だったが、すでに長期造血再構築能を失っていた。
リンパ球への分化を誘導する遺伝子を精査した結果、Satb1の発現量が免疫系の老化に関係するとわかった。造血幹細胞は骨髄球、赤芽球、リンパ球へ分化するが、老化するとSatb1が低下してリンパ球に分化できず、免疫系で中心的な役割を担う白血球が作られない。
免疫系の調節が可能になれば
免疫系が調節できれば高齢者のワクチン接種の有効率が高まり、感染症、がんの罹病率が減少する可能性がある。個人の生活の質が向上するばかりではなく、きたる高齢化社会にとっての福音となる。
今回の研究ではSatb1の発現を誘導しES細胞からリンパ球を効率よく産生できることも確認した。今後、Satb1の発現を調節しES細胞やiPS細胞から大量の免疫細胞を誘導する技術ができれば、免疫機能が低下する疾患に誘導細胞を用いた治療法が開発されるだろう。(馬野鈴草)
▼外部リンク
大阪大学プレスリリース
http://www.osaka-u.ac.jp/