感情の客観的評価は困難
大阪バイオサイエンス研究所の研究グループは「不安」と「恐怖」を引き起こす神経回路が脳内で別々に存在することを発見した。
感情の発現には脳の異なる部位が関わるとされるが、どの部位にどの感情が関わっているかを正確に規定することは難しい。感情を客観的に評価する指標が少ないためで、「不安」「恐怖」という類似の感情ではなおさら詳細な部位の区分は困難となる。
心理学、精神医学、哲学などでも「不安」と「恐怖」の関連性や違いについて取り上げてきたが、二つの感情を主観的な体験や心理学的な体系づけで説明するにとどまり、脳内の情報伝達基盤を生物学的に解明していない。
神経回路に解剖学的、遺伝子工学的にアプローチ
同グループはヒトと同様の神経ネットワークをもち遺伝子操作もしやすいマウスの脳内で「不安」「恐怖」という情動行動の発現機構を解析した。その結果、中隔核に属する三角中隔核と前交連視床核が内側手綱核への主要な入力経路であること、内側手綱核の腹側または背側とそれぞれ異なる部位に投射することを突きとめた。
さらに神経細胞を特異的に除去したマウスの行動を解析した。三角中隔核の神経細胞を除去すると「不安」様行動が減弱し、前交連視床核の神経細胞を除去すると「恐怖」行動が亢進した。つまり、三角中隔核と前交連視床核は解剖学的に分離した投射を内側手綱核に送り、二つの異なる神経連絡は機能的にも分離されてそれぞれ「不安」と「恐怖」を制御していることが明らかになった。
今回の研究で「不安」と「恐怖」の脳内で発現する仕組みのちがいを立証したが、実は「不安」や「恐怖」は統合失調症、不安障害などの精神疾患にも深く関与する。今後、精神疾患の発症機序の解明、新たな診断・治療法につながると期待される。(馬野鈴草)
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大阪バイオサイエンス研究所
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