たった1種類で様々な刺激に応答する不思議
独立行政法人理化学研究所は23日、生体膜に存在する受容体のひとつで、感覚受容における重要な役者といってよい「TRPチャネル」について、これまで知られていなかった構造や、その刺激応答の仕組みの一端を解明したと発表した。これは、理研放射光科学総合研究センター分子シグナリング研究チームの山下敦子チームリーダーをはじめとするメンバーの共同研究グループによる成果という。
人の生体膜には、外界からの刺激を情報に変換するイオンチャネル型受容体がある。これらの受容体がイオンを透過させて、情報伝達を行っているが、なかでも「TRPチャネル」は、それ1つで複数の刺激に応答できることで知られている。
TRPチャネルは27種類あり、それぞれ似た構造と独自の細胞内構造があるが、なぜ1つの受容体で、複数の刺激に柔軟に応答できるのか、これまでその詳しい仕組みは、謎に包まれていた。
(理化学研究所サイトトップより参考画像)
鎮痛薬など創薬事業にも生かせる特殊なメカニズムが判明
過去の研究で低い分解能での全体像は解析されているが、高い分解能での立体構造などは解明されておらず、TRPチャネルの特徴はつかみ切れていなかった。そこで、研究チームでは、TRPチャネルの特徴的な機能を生み出す立体構造の詳細な解明に挑んだという。
まず、赤カビ病を引き起こす植物病原菌から、TRPチャネルの基本モデルとも言える「TRPGz」を新しく見つけ、酵母で発現させて機能解析を行った。すると、細胞の内側に複数の刺激への応答を制御する領域があることが発見されたという。
そこでこの領域について、さらにSPring-8を用いたX線結晶構造解析をはじめとした立体構造解析を実施したところ、4つの特徴的な基本構造が弱い相互作用で束ねられた状態と、ばらばらの状態を行ったり来たりしていることが分かり、束ねられているときにのみ、浸透圧や温度上昇に応答、一方ばらばらの状態のときに他の刺激に柔軟に反応していることが判明したそうだ。
外界からの刺激を感知する感覚受容は、いまだ仕組みの解明が進んでいない部分も多い。今回の研究成果は、TRPチャネルが関わる多くの生命反応への理解を進めるとともに、鎮痛薬をはじめとした創薬事業にも生かせる情報として注目されている。(Yuk.)
▼外部リンク
理化学研究所 プレスリリース
http://www.riken.go.jp/pr/press/2013/