■農水省プロジェクト
遺伝子組み換え技術を応用してスギ花粉の蛋白質を人工的に取り込ませた、スギ花粉症緩和米を医薬品として開発する研究が進んでいる。農林水産省が2011年度から5カ年計画で研究に着手している「アグリ・ヘルス実用化研究促進プロジェクト」の一環で、昨年度に引き続き、ラットとサルを用いた非臨床試験を進めている。昨年からは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)と事前面談や薬事戦略相談などを重ね、薬事申請を行うために非臨床試験で揃えるデータを確認する作業に本格的に着手。同省農林水産技術会議事務局の松本隆研究調整官は、「治験に入るまで、どのようなステップを踏んだらいいか見えてきた」と話す。プロジェクト終了までおよそ2年だが、松本氏は「治験の第I相、第II相の前半くらいまで進めたい」と話す。
スギ花粉症緩和米の開発は、薬事法に基づいて進める必要があるが、プロジェクトの実施機関となっている農業生物資源研究所には医薬品開発のノウハウが乏しい。
例えば、毒性試験を行うにしても、どのようなデータを揃えたらいいのかが分からず、PMDAからデータの不備を指摘されることもあったという。
そのため、昨年からはPMDAとの相談を本格化させ、薬事申請の際に非臨床試験でどのようなデータを揃えたらいいかを細かく確認した。松本氏は「治験に進むためには、どのようなステップを踏んでいくべきか、GMP基準にどう対応したらいいかなどを聞くため、事前面談を4~5回、薬事戦略相談も行った」と話す。
プロジェクトは、今年度予算から機能性農林水産物等を核に新たな需要を創出する「農林水産資源を活用した新需要創出プロジェクト」(9億2400万円)に統合されたが、目標達成に向け、例年並みの4億円規模の予算は確保できているようで、実用化に向けた研究の進展が期待される。
現在、花粉症の治療は、かゆみや鼻水などの症状を引き起こす「ヒスタミン」の働きを止める薬を服用する対症療法が主流となっている。
根治療法としては、アレルギーを起こす花粉の抽出液を少しずつ患者の体内に注射したり、花粉のエキスを舌下に垂らして花粉に対する“慣れ”を体内につくる減感作療法があるが、エキスの濃度を少しずつ上げながら長い期間をかけて体を慣らしていく必要があるため、効果が出るまでに2~3年は通院しなければならない。注射では痛みも伴う。
花粉症緩和米は、腸で免疫細胞に吸収されるため、アナフィラキシーを起こしにくい状態で、免疫寛容を引き起こす腸管免疫が獲得できるという利点があるという。
プロジェクトでは、第I相、第II相試験の前半くらいまでを担い、その後は、製薬企業に引き渡したい考えだが、松本氏は「われわれとしては、このメリットを宣伝して開発を進めてくれる企業を探し、製剤化まで持ち込みたい」と期待を寄せる。