X染色体の凝縮に関わるタンパク質
性決定を担う性染色体が男性はXYに対して女性はXXとX染色体が2本ある。これでは読み取られる遺伝子情報が多くなり、どちらか1本が休止状態でなければ生存できない。そのため女性の細胞には小さく折りたたまれて凝縮した不活性のX染色体、すなわち「バー小体」が観察される。今回、北海道大学、モノクローナル抗体研究所、九州大学、大阪大学などの共同研究グループはバー小体を形成するタンパク質HBiX1を発見した。
バー小体は60年以上前に報告されているが具体的な構造や働きは解明されなかった。ヘテロクロマチンという構造をとり、タンパク質HP1が構成する。研究グループはHP1に結合するタンパク質の種類を質量分析器や遺伝情報解析装置で特定していった。その結果、不活性X染色体にタンパク質HBiX1が多く存在することがわかった。
HBiX1が他のタンパク質と連携してヘテロクロマチン構造を形成することやこれらのタンパク質の働きを阻止するとヘテロクロマチン構造自体が消滅することも明らかになった。X染色体以外の染色体にもHBiX1などが存在するが、これは染色体上のさまざまな領域の凝縮に関わっていることを示唆する。
凝縮した染色体構造の応用
凝縮した染色体構造は発生・分化に関わる遺伝情報の読み取りを抑制して細胞間の違いを生む遺伝子の発現パターンを規定すると考えられる。つまり凝縮した染色体構造が正しく作られないと疾患の原因になる可能性があり、実際にある種の筋ジストロフィーやがんの発症に関与するという最近の報告がある。
人為的にタンパク質を操作して細胞の性質を改変する方法に発展するとされ、すでにiPS細胞作成技術、染色体トリソミーによる障害の緩和、筋ジストロフィー治療への応用が期待されている。(馬野鈴草)
▼外部リンク
北海道大学プレスリリース
http://www.hokudai.ac.jp/