がん治療に抵抗性を示すがん幹細胞
がんの再発や転移を引き起こすとされるがん幹細胞はほとんど増殖しないため、抗がん剤が効かない。九州大学生体防御医学研究所はがん幹細胞の静止期のメカニズムを明らかにし、がん幹細胞の増殖を再開させて抗がん剤で撲滅することに成功した。
静止期と呼ばれる冬眠状態のがん幹細胞を増殖期に移行させれば、その治療抵抗性を破綻できる、と研究チームは考えた。研究の結果、静止期を維持させている因子がFbxw7という分子であると突き止め、これを欠損するとがん幹細胞の増殖抑制が解除されることがわかった。
静止期からがん幹細胞を追い出す
慢性骨髄性白血病の場合、治療薬のイマチニブの投与中は白血病を抑えるが、投与を中止すると約60%が再発する。治療薬はがん細胞を殺せてもがん幹細胞には効果がない。しかし、Fbxw7を欠損させたところ、がん幹細胞はイマチニブで死滅、投与中止後も再発しなかった。がん幹細胞を静止期から追い出して抗がん剤を投与し、がん幹細胞を根絶する、この方法を「静止期追い出し療法」と名づけた。
慢性骨髄性白血病の寛解を維持するにはイマチニブの継続投与が必要だが経済的負担が大きい。今回イマチニブ投与を中止しても再発はほとんどないと証明したことから、Fbxw7の働きを抑える阻害剤を開発すればがん幹細胞の死滅による白血病の根治が実現すると考えられる。
また、乳がん、脳腫瘍、大腸がんなどでもがん幹細胞が同定され、いずれにも共通の特性があるため、白血病と同様にがん幹細胞が治療抵抗性の原因となっている可能性がある。これらの疾患の根治療法にもつながると研究チームは期待している。(馬野鈴草)
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科学技術振興機構・九州大学プレスリリース
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