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ARO協議会発足―アカデミア発イノベ推進

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2013年03月06日 AM10:09

医薬品・医療機器・医療技術の臨床開発に取り組む大学・研究機関で構成する一般社団法人ARO(Academic Research Organization)協議会が発足した。文部科学省の橋渡し研究(TR)拠点プログラムのメンバーによる、アカデミア発シーズ実用化のオールジャパンの推進母体となる。2月1日付で登記を済ませ、今月の第1回理事会で事業計画や担当理事を決定した。加盟機関が年間100万円ずつ拠出して運営し、日本製薬工業協会など産業界と連携しながら国内の医療イノベーションを加速させる。

左から福島氏、清水氏、中西氏、佐藤氏

■薬事法準拠の研究開発に弾み

これまでアカデミアは臨床研究倫理指針などのガイドラインに基づく臨床研究が主体でGLP、GCP、GMPといった薬事法ベースの治験は難しいとの指摘があったが、協議会設立を中心的に世話した先端医療振興財団の福島雅典臨床研究情報センター長は、「そうした認識は間違っている。既にアカデミアは薬事法に基づく開発の基盤を保有したと言っていい」と話す。

文科省トランスレーショナルリサーチ(TR)拠点プログラムでは、第1期の2007年度から11年度までの5年間に、各施設に2件以上の治験を条件に課した。参加した7拠点は全てクリアし、現段階の治験届提出は19件、承認申請済みが5件となっている。承認取得も3件あり、さらに1件が間もなく承認を取得できる見通し。

12年度に始まった第2期プログラムでは、既に自立化のメドをつけた先端医療振興財団に代わって名古屋大学が加わり、順調に取り組みを加速させている。12年度厚生労働省の希少難治性疾患克服事業重点研究でもアカデミア発の開発治験が3件行われている。

福島氏は「研究開発中の案件には将来ブロックバスター級に成長することが期待されるものもある。先行するアメリカとも正面から戦える時代がやってきた」と強調する。

ただ、課題が完全に克服できたとは言えない。治験を実施する施設が自ら計画を策定し、モニタリングや評価を行う場合、薬事法の要求を満たすために相応の組織体制や人材の確保が必要となるほか、利益相反の排除や倫理性が必ずしも第三者的に担保できない可能性があるからだ。知的財産の管理も全てのアカデミアが十分に対応できるとは言えないのが現状だ。

そこで、本格的なアカデミア創薬を見据えた環境をアカデミア自身で整備していくために、協議会が存在感を発揮していく。

初代理事長は九州大学病院の中西洋一ARO次世代医療センター長で、副理事長には京都大学病院の清水章探索医療センター教授、北海道大学病院の佐藤典宏高度先進医療支援センター長の2氏が就任した。

主な活動領域は、▽薬事情報の共有と理解の促進▽知的財産戦略の策定と実践▽細胞療法・再生医療・遺伝子治療等に必要なアカデミアにおける細胞調整施設(CPC)の整備・活用▽データマネジメント・生物統計等のデータセンターの充実▽プロジェクトマネジメント・薬事・臨床研究コーディネーター・モニター等の人材教育――など。会員間の意見交換にとどまらず、社会への情報発信、規制当局に対する提言も視野に入れている。

■中西理事長、TRの健全な育成目指す‐臨床研究中核病院も参加へ

中西理事長は協議会設立の意義を、「希少・難治性疾患といった製薬企業には難しいチャレンジングな領域はわれわれアカデミアの使命。何より大事なのは日本のTRが健全に育つこと。TR拠点を揃って高い水準に持っていきたい。倫理性や利益相反についても問題がないことを社会に理解・納得してもらわなければならない」と説明する。さらに「個々の医療機関、研究者だけでは解決できない問題があることが分かってきた。課題の解決に向けて継続的に取り組むことが、TR拠点の自立化策の一つになる。深い議論を行って、結果は公表していく」と意気込みを語った。

薬事法02年改正で医師主導治験が導入されてから約10年間、アカデミアが基礎研究の成果を自ら臨床応用して実用化する流れが拡大してきた。医薬品医療機器総合機構(PMDA)による支援体制の充実も追い風で、特に近年は薬事戦略相談の活用がシーズを製品につなげる有効な要素になっている。

しかし、先端医療領域では規制当局の審査方針が明確になっていないのも事実で、中西氏は「特に細胞療法や再生医療などはPMDAでも基準が定まっていない。国の見解がまとまっていないなら、われわれから提言していくことも必要」としている。GMPにおけるCPCの取り扱いでも整理できていない部分があるという。

また、グローバルな市場展開を狙える革新的なシーズも既にアカデミアから出ている。こうした状況を背景に知的財産をめぐる大学等の知財本部とTRセンターの考え方の統一、開発の初期段階からの企業との提携やライセンスアウトを適切に進めるためのノウハウが、これまで以上に重要になってくる。

組織としての利益相反の問題も、解決しなければならない喫緊の課題として残っている。

これらのテーマはTR拠点プログラム第1期で専門家連絡会で取り上げていたが、今後は同協議会として議論を再開し、意見集約していくことになる。

一方、メンバーについては、現段階はTR拠点と、それらをサポートする先端医療振興財団にとどまっているが、将来的にはTR拠点に指定されていない厚生労働省の臨床研究中核病院も取り込むことが念頭に入っている。“ARO”の定義や具体的な役割・機能も参加組織を拡大する中で明確になっていくものと見られる。

今夏には学術大会を開催する計画もあり、同協議会は積極的に事業を展開していく方向だ。

【ARO協議会設立趣意書】
わが国の国是である「科学・技術立国」を支えるアカデミアの使命として、ライフサイエンス分野においては、医薬品・医療機器にかかるイノベーションの創出が強く期待されている。これまでわが国はライフサイエンスの基礎研究に多大な投資を行ってきたが、その成果が国民に十分還元されているとは言い難い。そのため文部科学省は過去10年、基礎研究の臨床応用を目指す橋渡し研究に地道に投資を続け、ようやくアカデミアにおいても、国際ルールに沿った新規医薬品・医療機器の開発が進められるようになった。こうしてわが国全体の研究開発パイプラインがアカデミアに確立し、同パイプラインから生み出される新規医療技術について、開発シーズの適応疾患から全体を俯瞰し、またどのシーズ開発に対して優先的に投資を集中すれば、どれくらいの期間でいかなる便益を国民にもたらし得るかも概算できるようになってきた。近年、新規医療技術開発における国際競争はますます激しく、わが国が今後、国民の健康と公衆衛生の向上を確保するために、アカデミアはその使命を深く自覚し、かつ、その責任を果たさねばならない。治療法のない難治性疾患に対しては新たに安全かつ有効な治療法を開発し、すでに治療法のあるものについては標準治療を革新して国民に届けることは、アカデミア、とりわけ「医療の憲法」である医療法に規定された特定機能病院の責務である。なかでも、収益性のない難治性・希少疾患等に対する治療法の開発においてアカデミアの役割はきわめて重要である。現在、医学・医療は人類未曾有の革命期にあり、この革命を担うべく日本全国の医師・研究者は連携して、より深く人間を理解し、より高い精度で疾病を理解し克服する科学を推進せねばならない。

ここに、全国のアカデミアのネットワークを構築し、その連携の推進を図り、より安全かつ有効な医療の実現を通じて国民の健康と公衆衛生の向上に資することを目的として、ARO協議会を設立する。

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