血管新生後に軸索が再生する
大阪大学は多発性硬化症で傷ついた脳や脊髄などの神経が自然に再生するメカニズムを解明した。また血管が放出するプロスタサイクリンの働きを強めてマウスの症状改善を早めることにも成功した。
多発性硬化症は脳や脊髄に生じた炎症により中枢神経が損傷する難病で、手足のまひや視力の低下などの重篤な症状が現れる。症状は再発と寛解を繰り返しながら進行する。
神経細胞の軸索の再生力が弱いため回復が難しいと考えられてきたが近年、脊髄損傷や脳血管障害で損傷を受けた神経細胞の軸索がわずかに自然に再生することがわかってきた。症状が好転する場合は神経が再生したためと考えられるが、そのメカニズムは不明だった。一方で多発性硬化症の病巣に新しい血管がたくさんできることが明らかになっている。血管新生と軸索の再生の関係はわかっていなかった。
研究グループは、多発性硬化症に類似する脳脊髄炎を発症したマウスの実験で軸索の再生は血管新生の後に起こることを発見した。さらに血管内皮細胞が分泌するプロスタサイクリン(血小板の凝集や血管拡張作用を持つ生理活性物質)が軸索の再生力を高めることを突き止めた。プロスタサイクリンの働きを強めて脳脊髄炎マウスの症状の改善が促進することにも成功した。
神経回路研究に新たな展開
神経回路の形成についてこれまでの研究では神経系の細胞間の関係に着目していたが、今回の研究は血管と神経という異なる種類の細胞間の関係から解明した。同グループは新しい方向性の提示となるのではと考えている。
今後、多発性硬化症をはじめとする中枢神経損傷に対する新たな分子標的治療薬の開発につながることが期待される。(馬野鈴草)
▼外部リンク
大阪大学・科学技術振興機構プレスリリース
http://www.jst.go.jp/