蝸牛有毛細胞の再生を誘導
慶應大学とハーバード大学の共同研究グループがマウスの内耳性難聴に対して薬剤を投与して聴力を改善させることに成功した。
蝸牛(かぎゅう)有毛細胞は音刺激を電気信号に変換する「きこえ」のセンサー。この信号を脳神経系で音として知覚する。有毛細胞は加齢、薬剤、音響曝露などで傷害を受けると、哺乳類では生えかわらないため恒久的なダメージとなる。
有毛細胞になる素養をもつ細胞は、胎生期に隣接する細胞同士がNotch情報伝達系でシグナルを送り合い、有毛細胞に分化するものと支持細胞(感覚上皮としての構造を維持する)に分化するものに分かれる。つまり有毛細胞への分化を抑制するNotch情報伝達系の働きを薬剤で阻害すれば、有毛細胞に誘導することができる。
Notch阻害剤には低濃度で高い誘導効率をもつ薬剤(ここではガンマセクレターゼ阻害剤)を選択した。まずこれを体外投与し有毛細胞数の回復と支持細胞の減少を確認、支持細胞から新たな有望細胞が作り出されていることを検証した。
次いで過大音曝露で有毛細胞に外傷を負ったマウスの内耳にこの薬剤を手術的に局所投与したところ、支持細胞が有毛細胞に分化したことがわかった。また聴力の検査で難聴がわずかに軽減していることも明らかになった。
内耳再生医療に道
蝸牛は小さな臓器で2mmの幅に約2万の有毛細胞が4列に並ぶという精緻な構造をしている。細胞移植などではこの構造を壊し機能を損なう危険性がある。有毛細胞への分化誘導を体内で行う手法は内耳再生医療に新たな可能性を開くものと考えられる。(馬野鈴草)
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慶應義塾大学プレスリリース
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