■厚労省、新たな検討会を設置へ
厚生労働省が省令で一般薬のインターネット販売を規制したのは違法だとしてケンコーコムとウェルネットが起こした行政訴訟で、最高裁判所は11日、国の上告を棄却する判決を言い渡した。国の敗訴が確定したことで、ケンコーコム、ウェルネットの2社に第1類、第2類のネット販売が認められることになる。ケンコーコムの後藤玄利社長は、「多くのお客様にご迷惑をおかけしている」とし、第1類、第2類のネット販売を再開したことを明らかにした。厚労省は、月内にも新たな検討会を設置し、安全性を担保した上で第3類以外の一般薬をネットで販売できるようにするためのルール作りを模索する。
裁判の主な争点は、厚労省の省令による規制が改正薬事法の委任の範囲内かどうか。最高裁判決では、改正法の規定に「郵便等販売を規制すべきとの趣旨を明確に示すものは存在しない」と指摘。改正法の立法過程の議論を踏まえても、「国会が郵便等販売を禁止すべきとの意思を有していたとも言い難い」とし、第1類、第2類のネット販売を一律に禁止した省令について、「改正薬事法の委任の範囲を逸脱し、違法で無効」との判断を示した。
ネット販売訴訟をめぐっては、2010年3月の1審東京地裁判決が規制は法の委任の範囲内と判断し、規制の合理性が認められるとして2社の請求を退けた。しかし、12年4月の2審判決では、改正薬事法は第1類、第2類のネット販売を一律に禁じておらず、省令は法の委任の範囲を逸脱した違法で無効なものとして、国側の逆転敗訴を言い渡していた。
判決を受けて後藤氏は、「長い苦しい戦いだったが、われわれの主張が認められ、ほっとしている。厚労省は一刻も早く違法と判断された省令を改正し、正々堂々とインターネット販売ができるようにしてほしい」と語った。
その上で、「IT技術は進歩しており、新たな技術を活用することで、さらに安全に販売できると考えている」と主張した。
今後、第1類、第2類のネット販売が認められるようになった2社には、どのように安全性を確保して販売するかという課題の解決が求められることになる。
会見で後藤氏は、「ケンコーコムでは、医薬品販売を始めてから10年間、副作用の報告は1件もなかった」とするが、利用者が増えれば健康被害が起こる可能性は高まるだけでなく、実際に健康被害が認められれば、反対論が高まる恐れもある。安全性確保のための厳しいルール作りは不可欠だ。
■田村厚労相「大変厳しい判決」
最高裁判決を受け、田村憲久厚労相は同日夕、記者団に「大変厳しい判決。われわれの主張が十分に理解していただけなかった点は厳粛に受け止めなければならない」と語った。その上で、今後、法令等の郵便等販売に関わる新たなルール作りに向け、検討会を設置するよう指示したことを明らかにした。
田村氏は「検討会での議論の中身次第だが、法改正も十分視野に入れながら検討していただき、なるべく早く結論を取りまとめたい」と述べ、薬事法改正も視野に入れていく考えを示した。新たに設置する検討会では、ネットの必要性や販売できる医薬品の種類などを議論していく予定だ。
ケンコーコムが11日から第1類、第2類のネット販売を再開したことについては「十分に情報提供をお願いしたい」と要請。原告2社以外の業者がネット販売に踏み切ることにも慎重な対応を求めた。
日本薬剤師会の児玉孝会長は、「今回の最高裁判決は誠に遺憾」とした上で、「本来的には医薬品の安全性を担保することが重要であり、判決の焦点は、インターネット販売の是非論ではなく、法的不備が指摘されたと受け止めている」とコメント。「原告2社についてはネット販売の規制が外れた形だが、薬事法を踏まえて安全性を担保することは必須」と指摘し、2社の対応が課題になってくるとの認識を示した。厚労省が設置予定の検討会にも積極的に参加していく方針を述べた。
日本チェーンドラッグストア協会は、「今後ドラッグストア各企業は、法律に基づき、しっかりと責任ある医薬品販売を行っていく」との対応方針を発表。「他の業者が認められたわけではなく、会員には引き続き慎重かつ冷静な対応を求めていく」とした。
■かえってリスク増した‐薬被連・増山さん
一方、全国薬害被害者団体連絡協議会の増山ゆかりさんは、「今回の判決は、あくまでも薬事法の範囲を争ったもので、医薬品のネット販売が安全とは言っていない。逆に第1類、第2類のネット販売に規制がない状態が生まれたわけで、消費者にとってはリスクが増したと考えるべき」との認識を示した。
その上で、「成りすましが可能なことなど、もともとネットが持つ危うさを考えると、医薬品の販売はなじまないと思う。本当にネット販売で薬剤師が関与しているのか、メールの問い合わせに対する回答を消費者が正しく理解できているのか、不明な部分が多い」と指摘。今回の判決で、第1類と第2類のネット販売が認められたことで、かえって規制がない状況が生まれたことに危惧を示した。