造血幹細胞のエネルギー産生法は解糖系
慶應義塾大学などの研究グループが血液を造る幹細胞を体外で維持する新手法を開発した。白血病などの治療では造血幹細胞を用いて骨髄移植を行うが、ドナー不足もあって人為的に増殖させる技術が求められてきた。また幹細胞の老化やがん化は血液疾患発症の原因と考えられ、これを維持するメカニズム解明が必要だった。
(Wikiコモンズを利用)
研究グループは造血幹細胞が骨髄の中でも酸素の少ない部位にいることから、酸素のいらないエネルギー産生方法を利用しているのではと考えた。代謝産物を網羅的に解析するメタボローム解析を実施。造血幹細胞が、糖を分解してエネルギーを生じる解糖系に頼っていること、酸素を利用してエネルギーを産生するミトコンドリアの代謝経路を抑制していることを突き止めた。酸素を使用しないのは活性酸素による老化から幹細胞を守るためである。
造血幹細胞の代謝特性を生かした増殖の手法
同研究では、造血幹細胞を維持するために遺伝子のPdk2 とPdk4が活性化していることも明らかにした。幹細胞にはピルビン酸脱水素酵素(Pdk)を介した代謝特性が欠かせないとの知見から、Pdkに似た低分子化合物でこの代謝特性を操作したところ、体外で長期間幹細胞を培養することにつながった。
これまで造血幹細胞は試験管内で強制的に増殖されてきたが、この方法だと幹細胞が老化し機能を喪失する、白血病が発症するなどの問題があった。代謝特性を活性化させる今回の方法なら体外で長期間に維持でき、既存の方法と組み合わせれば安全、効率的に造血幹細胞を増殖できる可能性がある。また、ES細胞、iPS細胞などの多能性幹細胞から造血幹細胞を誘導する研究が進んでいるが、代謝特性を制御する化合物を利用して誘導効率を向上していくことも考えられる。
▼外部リンク
慶應大学プレスリリース
http://www.keio.ac.jp/