がん免疫療法の経緯
理化学研究所はナチュラルキラー細胞や樹状細胞を利用して特定のがんを抑制する「ヒト型人工アジュバントベクター細胞」を作製した。これにより多様ながんに対応可能な細胞療法が実現する。
生体を病原体から守る免疫系には自然免疫と獲得免疫がある。自然免疫は抗原に初期防御を行う樹状細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞。獲得免疫は特定の抗原を排除するB細胞、T細胞のリンパ球。樹状細胞が侵入した抗原を取り込みその情報をT細胞に提示して、T細胞が抗原に攻撃をしかけるという仕組みだ。
がん免疫療法は80年代に自然免疫を利用したLAK療法、サイトカイン療法。90年代から、がん抗原がもつ小さなタンパク質の断片(ペプチド)を標的にするペプチド療法や、樹状細胞を体外で増やしてがん抗原ペプチドを添加、再び体内に戻す免疫療法が行われた。いずれも、樹状細胞が十分に得られない、獲得免疫の排除を逃れるがん細胞があるなどの問題があり、現在は体内の樹状細胞の活用に注目が移っている。
医薬製剤化の可能性
今回の研究では自然免疫と獲得免疫の両方を誘導する新たな免疫療法を目指し、T細胞の標的のがん抗原とNKT細胞を活性化する糖脂質「α-GalCer(アルファ-ガラクトシルセラミド)」を同時にもつ「人工アジュバントベクター細胞(aAVC)」を作製した。
ヒト免疫細胞を移植したマウスにaAVCを投与したところ、両方の免疫が活性化してT細胞の分裂・増殖が活発になった。これは生体内の樹状細胞が侵入したaAVCを取り込み、T細胞がそれを認識して攻撃したもの。
aAVCは抗原を取り換えられるので多様ながんに適応する。従来の免疫療法は患者の血液によるオーダーメイドだったが、aAVCは他家細胞の利用で抗原の発現が調節可能になり、医薬製剤化が期待できる。
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